不整脈 家庭の医学

解説
 ふつう、心臓はおよそ規則正しくうつものですが、これが速くなったりおそくなったり、または間隔が乱れるのが不整脈です。不整脈は手くびで脈をさわってみるとわかります。でも、くわしくは心電図検査によらなければなりません。
 不整脈は、心臓が健全な人にも運動前後や神経の緊張で起こります。しかし、脈の乱れが続いたり、危険な不整脈が起こるのは病的で、心臓の病気がある場合に起こりやすいものです。


■不整脈の種類
 不整脈は、脈が速くなる頻脈(ひんみゃく。あるいは頻拍〈ひんぱく〉)と、脈がおそくなる徐脈(じょみゃく)に分けられます。発生部位によって上室(心房)性と心室性にも分けられます。また、重症度によって、安全な不整脈と危険な不整脈に分類する場合もあります。

(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 常勤顧問 梅村 純)
コラム

植え込み型除細動器(ICD)と皮下植え込み型除細動器(S-ICD)

 植え込み型除細動器(ICD:implantable cardioverter defibrillator)は、心室頻拍や心室細動の発作が起こったときに自動的に作動して電気ショックを与え、突然死を防ぐ装置です。植え込み手術は2時間程度で、鎖骨の下のあたりを小さく切開し、皮膚の下に植え込みます。
 心室細動を起こして救命され心臓の機能が低下している人や、ブルガダ症候群・QT延長症候群などで一度でも失神したことがある人には、ICDの植え込みがすすめられます。心機能のわるい人では、除細動機能付き両室ペースメーカー(CRT-D)の植え込みが第一選択になります。CRT-Dは、右心室と左心室の収縮のリズムを整え、心機能を改善させます。ICDやCRT-Dの植え込み後は、ふつうに日常生活を送ることができます。
 皮下植え込み型除細動器(S-ICD:Subcutaneous-ICD)が日本でも使えるようになりました。左の胸の皮下に本体を入れて、リードは血管に入れずに皮膚の下を通して、胸骨の横に植え込みます。わるい不整脈が出たら、電流を流して除細動をするまったく新しいタイプのICDです。わるい不整脈が出たときに電流を流しますが、ペースメーカーの機能がないので、房室ブロックや洞機能不全があって、ペースメーカーの機能が必要な人には使えません。

(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 常勤顧問 梅村 純)
コラム

カテーテルアブレーション

 正式名称は経皮的カテーテル心筋焼灼(しょうしゃく)術といいます。専用のカテーテルとからだの背部に貼った対極板の間で、高周波を流すことにより、カテーテル先端の温度が40~60℃になり、半径数ミリメートル範囲で心筋が凝固し、不整脈の原因をつぶす治療法です。
 最近では、心房細動の治療としてクライオ(冷凍凝固)バルーンやホットバルーンといって、カテーテル先端についたバルーン(風船)を冷やしたり、温めたりして治療する方法も出てきました。

(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 常勤顧問 梅村 純)
コラム

左心耳閉鎖術

 心房細動という不整脈が長く続くと、心臓の中に血栓と呼ばれる血の塊ができ、それが飛んで全身の動脈でつまってしまう血栓塞栓症と呼ばれる合併症があります。血栓塞栓症のなかでも、脳の動脈がつまってしまうことによって起こる脳梗塞は深刻な合併症であり、命にかかわることがあります。この原因となる心臓内の血栓のほとんどが左心房内にある左心耳(さしんじ)と呼ばれる小さな袋の中でつくられることが知られていますが、近年カテーテルを用いて、この左心耳の入り口をふさいでしまおうという「左心耳閉鎖術」がおこなわれるようになりました。
 実際の手術は足の付け根から入れるカテーテルを用いておこなわれ、図のように左心耳の入り口をふさいでしまうという方法です。その後閉鎖が確認されれば、血栓予防に処方されていた抗凝固薬を減量、中止とすることが可能です。

(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 副院長/循環器内科 主任部長 井口 信雄