不整脈 家庭の医学

解説
 ふつう、心臓はおよそ規則正しくうつものですが、これが速くなったりおそくなったり、または間隔が乱れるのが不整脈です。不整脈は手くびで脈をさわってみるとわかります。でも、くわしくは心電図検査によらなければなりません。
 不整脈は、心臓が健全な人にも運動前後や神経の緊張で起こります。しかし、脈の乱れが続いたり、危険な不整脈が起こるのは病的で、心臓の病気がある場合に起こりやすいものです。


■不整脈の種類
 不整脈は、脈が速くなる頻脈(ひんみゃく。あるいは頻拍〈ひんぱく〉)と、脈がおそくなる徐脈(じょみゃく)に分けられます。発生部位によって上室(心房)性と心室性にも分けられます。また、重症度によって、安全な不整脈と危険な不整脈に分類する場合もあります。

(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 常勤顧問 梅村 純)
コラム

植え込み型除細動器(ICD)と皮下植え込み型除細動器(S-ICD)

 植え込み型除細動器(ICD:implantable cardioverter defibrillator)は、心室頻拍や心室細動といった命にかかわる重症な心室性不整脈(致死性不整脈)の発作が起こったときに自動的に作動してペーシング治療や電気ショックを与え、突然死を防ぐ医療機器です。植え込み手術は1時間半から2時間程度で、鎖骨の下のあたりを小さく切開し、皮膚の下に植え込みます。
 ICDは致死性不整脈を経験した人(二次予防)、あるいはその可能性が高いと予測される人(一次予防)が適応となります。
 2016年2月より日本でも皮下植え込み型除細動器(S-ICD:Subcutaneous-ICD)が使えるようになりました。左の胸の皮下に本体を入れて、リードは血管に入れずに皮膚の下を通して、胸骨の横に植え込みます。致死性不整脈が出たら、電流を流して除細動をするまったく新しいタイプのICDです。血管内にリードがないためペーシング機能が必要な患者さんには使えませんが、血管内にリードがあることで起こりうる、感染性心内膜炎三尖弁閉鎖不全などが回避できリード不全も少ない画期的なICDです。手術時間は従来の経静脈ICDと同じくらいです。
 重症心不全の人で右心室と左心室の同期不全で心不全が悪化している場合、両心室(右心室と左心室)ペーシングが心不全の治療に効果がある人もいます。このような患者さんには両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)の植え込みも選択肢になります。
 ICDやCRT-Dの植え込み後は、ふつうに日常生活を送ることができます。

(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 循環器内科 副部長 井上 完起)
コラム

左心耳閉鎖術

 心房細動という不整脈は、心臓の中に血栓と呼ばれる血の塊ができ、それが飛んで全身の動脈がつまってしまう心原性塞栓症と呼ばれる病気をひき起こします。心原性塞栓症のなかでも、脳の動脈がつまってしまうことによって起こる脳塞栓症は深刻であり、数ある脳梗塞の原因のなかでも、もっとも後遺症がひどい状態になるといわれています。脳梗塞に対する治療後も寝たきりになることや命にかかわることがあります。この原因となる心臓内の血栓のほとんどが左心房内にある左心耳(さしんじ)と呼ばれる小さな袋の中にできることがわかっています。心臓内で血栓ができるのを防ぐためには、血液をサラサラにする薬である抗凝固薬をのまなければなりません。しかし、抗凝固薬をのんでいても脳梗塞になる場合や、逆に出血などの副作用でのめない場合があります。このような方に対して2019年よりわが国でもカテーテルを用いて、左心耳をふさぐ「左心耳閉鎖術」ができるようになりました。
 実際の手術は、図のように足の付け根の静脈から入れたカテーテルを左心耳まで進めていき、その中を通して左心耳をふさぐための器具を運び、左心耳の入り口に置きます。胃内視鏡のような経食道心エコーにより左心耳の入り口を確認しながら手術をします。このため手術は全身麻酔でおこないますが、足の付け根の部分を数ミリ切るだけで、からだへの負担はわずかです。治療から数カ月後に左心耳がふさがっていることが確認できれば、血栓を防ぐために処方されていた抗凝固薬を減らす、あるいは血液をサラサラにする薬を抗凝固薬より出血しにくい種類へ変更することができます。この治療により出血を減らしつつ、脳梗塞を予防できることがわかっています。

(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 循環器内科 主任部長 七里 守)