SGLT2阻害薬は、2型糖尿病や心不全(HF)の有無にかかわらず尿中のアルブミン/クレアチニン比(UACR)を低下させるが、両者を併発する患者における低下作用はまだ報告されていない。国立循環器病研究センター腎臓・高血圧内科部長の吉原史樹氏、臨床研究開発部の北風政史氏らは、2型糖尿病とHFの併発患者におけるダパグリフロジンのUACRに対する効果について多施設共同ランダム化非盲検並行群間標準治療対照試験DAPPERを実施。ダパグリフロジンは尿中アルブミン量を減少させなかったが、心血管(CV)イベント、左室リモデリングを抑制したとEClinicalMedicine(11月27日オンライン版)に報告した。
ダパグリフロジン群と対照群の計294例を追跡
DAPPERは2017年5月12日~22年3月24日に国内18カ所の医療機関で実施された。対象は2型糖尿病とHFを有する20~85歳の294例(平均年齢72.1歳、女性29%)。ダパグリフロジン群(146例)とSGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を投与する対照群(148例)に1:1でランダムに割り付けた。主要評価項目は開始2年後のベースラインからのUACRの変化で、副次評価項目はCVイベントとHFに関するパラメータとした。
対象は全てHbA1cが10%未満であり、糖尿病治療薬の開始または変更が必要であるか薬物療法の変更が可能で、推算糸球体濾過量(eGFR)が45mL/分/1.73m2以上だった。HFは、試験への参加同意の3カ月以内に①ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類がⅡ以上、②B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値100pg/mL以上またはN末端プロBNP(NT-proBNP)値400pg/mL以上、③薬物治療を必要とするHFの既往歴あり-とした。
除外基準は、同意時にインスリン治療中、治験薬に対する過敏症の既往歴あり、糖尿病性ケトアシドーシスまたは高スモラー血糖症候群の既往歴あり、機械的循環補助装置の装着などとした。
ダパグリフロジン群で心エコー指標、NYHA分類が改善
解析の結果、主要評価項目であるUACRのベースラインからの平均変化量については、ダパグリフロジン群と対照群で有意差は認められなかった(変化量の差-0.10、95%CI -0.38~0.18、P=0.48)。2年間の観察期間終了時のUACRの中央値は、ダパグリフロジン群で27.1mg/gCr(範囲12.1~75.4mg/gCr)、対照群で32.7mg/gCr(同11.5~91.7mg/gCr)だった。
副次評価項目に関しては、観察期間中のUACRの改善(ダパグリフロジン群19% vs. 対照群14%、P=0.29)およびベースラインからのeGFRの平均変化量(同-2.7 vs. -3.2、P=0.69)は両群で有意差はなかった。
しかし、心エコーパラメータの1つである左室拡張末期径の平均減少量は、対照群と比較してダパグリフロジン群で有意に大きかった(同-0.9 vs. 0.7、P=0.01)。2年間の観察期間中にNYHA新機能分類が改善した割合はダパグリフロジン群で14.6%と、対照群の8.3%に比べ高率だった(P=0.07)。またCVイベントは、ダパグリフロジン群で10件(HF 4件、脳卒中2件、不整脈2件、虚血性心疾患1件、治療抵抗性高血圧1件)、対照群で25件(HF 13件、不整脈5件、虚血性心疾患3件、脳卒中3件、大動脈解離1件)発生した。
CVイベントはダパグリフロジン群で60%減
複合エンドポイント(2年間の観察期間中のCV死またはCVイベントによる入院)は、対照群に比べダパグリフロジン群で発生頻度が有意に低かった〔ハザード比(HR)0.397、95%CI 0.174~0.907、P=0.028〕。
2年間の観察において、CVイベントによる入院、全入院、HFへの追加処方変更は対照群と比較してダパグリフロジン群で頻度が有意に低かった(CVイベントによる入院:HR 0.397、95%CI 0.174~0.907、P=0.028、全入院:同0.591、0.357~0.979、P=0.04、HFへの追加処方変更:同0.321、0.161~0.642、P=0.001)。心房細動、心房粗動の発症は両群で差がなかった。
以上の結果から、吉原氏らは「主要評価項目である2型糖尿病とHFの併存患者における尿中アルブミン排泄の減少は見られなかったが、ダパグリフロジンのCV保護作用により左室リモデリングが抑制されることが示唆された」と結論している、
(栗原裕美)