愛知医科大学先進糖尿病治療学寄附講座教授の中村二郎氏は、日本糖尿病学会が1971年に開始し、10年ごとに実施している「アンケート方式による糖尿病患者の死因に関する大規模調査」の最新結果を第58回糖尿病学の進歩(2月16~17日)で報告。「患者同士の比較では糖尿病症例と非糖尿病症例で平均死亡時年齢に大差はなく、日本人一般との寿命の差も縮まった。一方で死因に占める感染症肺がん、肝臓がんの割合は依然として糖尿病症例で高いため、引き続き対策が必要である」と述べた。

死因1位は悪性新生物、血管障害は40年で4分の1

 5回目となる今回の調査期間は2011~20年で、2016~20年に日本糖尿病学会の年次学術集会で発表を行った1,154施設に施設全体での死亡症例の登録を依頼。208施設(回収率18.0%)から登録された糖尿病症例6万8,555例、非糖尿病症例16万4,621例の計23万3,176例を解析対象とした。

 糖尿病症例における死因の1位は悪性新生物(38.9%)、2位は感染症(17.0%)、3位は血管障害(脳血管障害、虚血性心疾患、慢性腎不全)だった。糖尿病に特有の糖尿病性昏睡は0.3%、低血糖昏睡は0.1%で、合わせて280例だった。血管障害は女性で多く、悪性新生物は男性で多い傾向が認められた。

 糖尿病症例の主要死因について、過去5回の調査の変遷を見たところ、1、2回目では血管障害が最も多く約40%を占め、悪性新生物と感染症が続いた。しかし3回目には悪性新生物と血管障害の順位が、4回目には血管障害と感染症の順位が逆転し、5回目の今回は血管障害の比重はさらに低下する結果となった(図1)。

図1. 糖尿病症例における主要死因の変遷

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平均死亡時年齢は男性74歳、女性77歳、非糖尿病症例と同等

 今回の調査では、糖尿病症例と非糖尿病症例を同一施設から登録したため、両者の死因および死亡時年齢の比較ができた。その結果、死因の分布は類似していたが糖尿病症例は非糖尿病症例に比べ、自殺と血管障害以外の全ての項目の割合が有意に高かった(全てP<0.001、図2)。

図2. 糖尿病症例と非糖尿病症例の死因の比較

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 内訳を詳細に見ると、特に慢性腎不全は非糖尿病に比べ糖尿病で約2倍、肝臓がんは約1.5倍、膵臓がんは約2.5倍であった(全てP<0.001)。血管障害のうち、脳梗塞のみ両者に有意差が見られなかった(P=0.159)。

 平均死亡時年齢は、糖尿病症例では全体が75.4歳、男性が74.4歳、女性が77.4歳、非糖尿病症例ではそれぞれ74.8歳、73.5歳、76.6歳と、いずれも糖尿病症例で有意に高かった(全てP<0.001)。登録施設は急性期病院の割合が多く、非糖尿病死亡例に多く含まれる不慮の事故などの影響を考慮するため、自殺、その他の死因、死因不明症例(糖尿病症例21.7%、非糖尿病症例29.2%)を除き平均死亡時年齢を算出したところ、糖尿病症例では全体で75.2歳、男性で74.2歳、女性で77.1歳、非糖尿病症例ではそれぞれ75.1歳、74.5歳、76.5歳、75.1歳と、全体および男性において両者の有意差が消失した。

日本人一般との差は男性で-7歳、女性で-10歳

 次に、糖尿病症例と日本人一般で死因および死亡時年齢・平均寿命を比較した。その結果、死因について1~3回目の調査では日本人一般と比べて糖尿病症例で血管障害の割合が高かったが4回目調査で逆転し(18.8% vs. 14.9%)、今回は日本人一般で14.4%、糖尿病症例で10.9%と推移した。特に慢性腎不全と虚血性心疾患は1~3回目調査時には日本人一般と比べ大幅に比率が高かったが、今回は慢性腎不全について日本人一般で2.0%、糖尿病症例で2.8%、虚血性心疾患はそれぞれ4.9%、3.5%と差が縮小した。

 一方、悪性新生物や感染症は一貫して日本人一般に比べ糖尿病症例で高い割合で推移している。特に肝臓がんと膵がんは、3回目~今回において糖尿病症例で2~3倍に上り、肺がんは日本人一般で変化がないのに対し、糖尿病症例では増加傾向が示された。

 糖尿病症例の平均死亡時年齢と日本人一般の平均寿命を比較すると、糖尿病症例の方が男性で7.2歳、女性で10.4歳短かった。しかし、1回目調査からの伸び幅は日本人一般の男性8.2歳、女性8.9歳に比べ糖尿病症例ではそれぞれ11.3歳、12.4歳と大きく、両者の差は縮小していた(図3)。

図3. 糖尿病患者の平均死亡時年齢と日本人一般の平均寿命の比較

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(図1~3とも糖尿病 2024; 67: 106-128より中村二郎氏作成)

定期的な腫瘍検診と、易感染・易重症化を意識した日常診療が重要

 今回の調査結果から、中村氏は「糖尿病症例と非糖尿病症例の平均死亡時年齢に差は見られず、糖尿病症例の平均死亡時年齢と日本人一般の平均寿命の差は縮まっていた。1回目の調査実施後40年の間に、糖尿病の管理法、治療法などの進歩が患者の生命予後改善につながっていると考えられる」と結論。

 一方で同氏は、非糖尿病症例との比較において、糖尿病症例の死因として肝臓がんや膵臓がん、感染症、慢性腎不全の割合などが多かった点に関し「腫瘍マーカーや腹部X線、腹部CTなどを用いた定期検診、易感染性や易重症化性を念頭に置いた日常診療を考慮すべきである」と今後の課題を述べた。

(平吉里奈)