近年、患者の転帰に医師の性別が及ぼす影響が注目されている。女性患者は男性患者に比べ診療におけるネガティブな体験の頻度が高く女性医師による診療は女性患者にコミュニケーション効果の向上、信頼関係の改善、治療の提案に対する同意の拡大をもたらすことが示されているが、男性患者への便益は不明である。東京大学大学院ヘルスサービスリサーチ講座特任講師の宮脇敦士氏、米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校准教授の津川友介氏らの研究グループは、患者と医師の性による4通りの組み合わせについて転帰との関連を検討。女性患者では女性医師の診療による便益が大きいことが示唆されたとの結果をAnn Intern Med2024年4月23日オンライン版)に報告した。(関連記事「患者と外科医が同性なら術後死亡率は良好か」「外科医の性別で患者の臨床転帰に差」)

患者77万例超、医師4万人超のデータを解析

 津川氏らは以前、医師の性と患者の転帰との関連を検討し、女性医師の方が高齢入院患者の死亡率および再入院率が低いことを報告している(JAMA Intern Med 2017: 177; 206-213)。

 研究グループは今回、Medicareのデータベースから2016~19年に内科的疾患で入院した65歳以上の米国人77万6,927例(女性45万8,108例、男性31万8,819例)および担当医師4万2,114例のデータを抽出。性の組み合わせで、①女性患者・女性医師(14万2,465例・1万4,512例)、②女性患者・男性医師(31万5,643例・2万5,268例)、③男性患者・女性医師(9万7,500例・1万3,819例)、④男性患者・男性医師(22万1,319例・2万4,357例)-の4群に分け、転帰との関連を解析した。

 主要評価項目は入院日から30日間の死亡率と退院日から30日間の再入院とした。オッズ比の代わりに、患者の年齢、人種・民族性、入院の原因疾患、併存疾患、医師の年齢、資格、患者数などを調整した女性医師の診療による平均限界効果(AME)を算出。差分の差分法を用いて女性患者と男性患者における便益を比較した。

女性医師・女性患者で死亡率と再入院率が低下

 解析の結果、女性患者では30日死亡率(女性医師8.15% vs 男性医師8.38%、AME -0.24%ポイント、95%CI -0.41~-0.07%ポイント)、30日再入院率(同15.51% vs. 16.01%、 -0.48%ポイント、-0.72~-0.24%ポイント)ともに女性医師による診療の方が低かった。一方、男性患者では死亡率(同10.15% vs. 10.23%、-0.08%ポイント、-0.29~0.14%ポイント)と再入院率(同15.65% vs. 15.87%、-0.23%ポイント、-0.52~0.06%ポイント)に医師の性による差はなく、女性患者では女性医師の診療による便益が大きいことが示唆された。

 差分の差分分析では、30日死亡率(差分の差分推定量-0.16%ポイント、95%CI -0.42~0.10%ポイント)、30日再入院率(同-0.25%ポイント、-0.61~0.11%ポイント)と、いずれも有意ではないものの女性患者で便益が大きい傾向が示された。二次解析として重症度、入院原因疾患別に検討したところ、重症度が高い女性患者における30日死亡率は女性医師の診療で低く(18.30% vs 19.03%、AME -0.77%ポイント、95%CI -1.21~-0.33%ポイント)、原因疾患では消化器疾患で女性患者の女性医師による診療の便益が大きかった(差分の差分推定量-1.31%ポイント、95%CI -2.52~-0.10%ポイント)。

 以上の結果を踏まえ、研究グループは「女性患者では、30日死亡率および30日再入院率が男性医師に比べ女性医師による診療で低かった。差分の差分分析では有意差が示されなかったものの推定量は大きく、患者と医師の性による相乗効果が示唆された」と結論。「これまでの研究から、男性医師は女性患者の症状を過小評価する傾向にあることや女性医師が男性医師よりも長く患者の話を聞くことが報告されている。医師の性による診療パターンの差が女性患者における転帰の差につながった可能性がある」と考察した上で、「男女差なく質の高い医療を提供する方策を講じる必要がある」と付言している。

服部美咲