平時から備える
~災害時のトイレ問題(石巻赤十字病院 植田信策副院長)~
地震や台風など、自然災害が頻発する中、トイレ環境の整備は避難生活で優先度が高い。石巻赤十字病院(宮城県石巻市)の植田信策副院長は「トイレを我慢したり、水分を控えたりする時間が長く続くと、体調悪化や災害関連死につながる恐れがあります」と話す。

災害時のトイレ問題
◇トイレ控えは命取り
水や食料の確保に比べ、上下水道の復旧やふん尿処理施設などの補修には時間がかかる。東日本大震災を経験した植田副院長によれば、被災後3日以内に仮設トイレが避難所に行き渡った自治体は34%で、1週間以上たっても仮設トイレがない避難所も多くあったという。
仮設トイレが設置されても多くは和式で、足腰が不自由な高齢者や和式に慣れていない若年者には使いにくい。設置場所の多くは屋外のため、冬場は寒く、夜間は使用を控えようとする意識が働く。
「トイレが心配で水分や食事を控えると、脱水症につながり、静脈に血栓ができやすくなるエコノミークラス症候群のリスクが高まります」
さらに、栄養状態の悪化で体力が落ちた高齢者は、飲み込む機能も弱り、誤嚥(ごえん)性肺炎で命を落とすリスクも。手洗い用の水の確保が難しい避難所では、感染症にも注意が必要だ。
「清潔なトイレが使えない精神的ダメージは大きく、山積みの汚物や悪臭は被災者の気力を奪います。災害時のトイレ問題を人間の尊厳や命にかかわる重要な課題と捉えてください」
◇携帯トイレの備蓄を
植田副院長は「仮設トイレの設置まで、個人で対応することが必要」とし、水や食料とセットで携帯トイレの備蓄を呼び掛ける。「避難所での生活や在宅避難を余儀なくされた場合も、携帯トイレがあれば持ちこたえられます。1人1週間分は各自で確保しておきましょう」
避難生活の長期化に備え、便器を簡単に組み立てられる簡易トイレ、プライバシー確保のための小型テント、手洗い用の水、ウエットティッシュ、夜間のトイレ用の懐中電灯もそろえておくとよい。
近年、移動式のトイレトレーラーや、一般的な仮設トイレの約2倍の広さの手洗い付き洋式仮設トイレ、被災直後に用を足せるマンホールトイレを導入する自治体がある一方、地域格差も生じている。
「居住地域のトイレ対策に関心を持ち、不十分な場合は行政に要請を。ハザードマップで地域特有の災害リスクを把握し、避難行動計画を立てて家族と共有しましょう」と植田副院長は助言する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/04/22 05:00)
【関連記事】