米・Rutgers UniversityのChintan V. Dave氏らは、長期療養型介護施設に入居している高齢者における降圧薬の開始と骨折との関連を検討するため、target trial emulation(TTE:観察データを基にランダム化比較試験を模倣する手法)を用いた後ろ向きコホート研究を実施。その結果、降圧薬の開始は骨折リスクを約2.4倍高めること、転倒および失神のリスクも高めることが明らかになったJAMA Intern Med2024年4月22日オンライン版)に報告した。

降圧治療開始群と対照群を1:4の傾向スコアマッチングで選出

 長期療養中の高齢者では大多数が転倒を経験し、そのうち10〜15%が骨折や入院、死亡に至る。一方、降圧薬は高齢者に頻用されるが、合併症の1つである起立性低血圧は転倒ひいては骨折の引き金となり、特に治療開始直後にリスクが高まるとされる。

 Dave氏らは今回、降圧薬投与開始と骨折リスクとの関連を評価することを目的に、TTEを用いたコホート研究を実施した。

 対象は、米退役軍人健康管理局(VHA)のデータベースに2006年1月1日~19年10月31日に登録され長期療養型介護施設に入居している高齢者のうち、降圧治療開始エピソードが特定された1万2,942例と、傾向スコアマッチングを用いて50以上の共変量を調整し、1:4で選出した降圧治療を開始していない5万1,768例(対照)の計6万4,710例(平均年齢77.9±8.5歳)。

 降圧治療開始は、4週間前と比べ降圧薬のクラス数が増加した場合(すなわち治療の増強)と定義し、初めて降圧薬の投与を開始した場合も含めた。適格基準は、65歳以上で過去1年間に末期腎不全の所見がなく、指標日(降圧薬開始日)から2週間以内に収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)の測定記録が1回以上あることとした。

 主要評価項目は、降圧薬開始後30日以内の上腕骨、股関節、骨盤、橈骨、尺骨の非外傷性骨折認知症の既往、SBP 140mmHg以上、DBP 80mmHg以上、降圧薬使用歴などで層別化したサブグループ解析も行った。

認知症、SBP 140mmHg以上、DBP 80mmHg以上などで特にリスク増

 検討の結果、100人・年当たりの骨折発生率は、対照群の2.2に対し降圧治療開始群では5.4とリスク上昇が示された〔調整後ハザード比(aHR)2.42、95% CI 1.43〜4.08〕。100人・年当たりの調整後過剰リスクは3.12(95%CI 0.95〜6.78)だった

 降圧治療開始は、入院や救急外来受診を必要とする重度の転倒(aHR 1.80、95%CI 1.53〜2.13 vs. 対照群)や失神(同1.69、1.30〜2.19)のリスク上昇とも関連していた。

 サブグループ解析の結果、骨折リスクは、認知症の既往(aHR 3.28、95%CI 1.76〜6.10)、SBP 140mmHg以上(同3.12、1.71〜5.69)、DBP 80mmHg以上(同4.41、1.67〜11.68)、ベースライン時に降圧薬非使用(同4.77、同1.49〜15.32)の各集団で特に高かった。

 以上から、Dave氏らは「介護施設入居者では、降圧薬を用いて心血管イベントの発生リスクを低減させる必要がある一方で、転倒や骨折などのリスクは高まる。転倒や骨折のリスクに加え、病歴や治療適応、副作用の可能性を総合的に考慮した降圧薬の選択が必要だ」と結論している。

(今手麻衣)