クエチアピンなどの抗精神病薬は、認知症の行動症状に対して頻繁に適応外使用されるが、こうした処方は有害な可能性もある。米・Columbia UniversityのAdam Sacarny氏らは以前、過剰処方に対する警告書を医師に送付することにより2年以上にわたり処方頻度を減らせることを示したランダム化比較試験(RCT)の結果を報告した(JAMA Psychiatry 2018; 75: 1003-1011)。今回、同氏らの研究グループは、事前に計画されていた同試験の二次解析結果をまとめ、この介入が患者側の薬剤受け取り頻度も減らし、健康転帰には有害な影響を与えなかったことをJAMA Netw Open(2024; 7: e247604)に報告した。(関連記事「認知症への抗精神病薬、有害性大きい」)
クエチアピン総使用量と健康転帰への影響を評価
同試験では、MedicareのパートD(65歳以上対象の処方薬保険)において2013~14年に認知症患者にクエチアピンを頻繁に処方していた一般医5,055例を、過剰処方に対する警告書を送付する群(2,527例)と対照群(2,528例)にランダムに割り付け、2015~17年まで追跡。警告書送付群には、クエチアピンの処方量が他の医師と比べて多く、Medicareによる審査中である旨を記した書簡を2015年4月、8月、10月の3回にわたり送付。対照群には、Medicareの登録方法に関するパンフレットなど、クエチアピン処方とは関係のない書簡を2回送付した。
主要評価項目とした9カ月後における医師1人当たりのクエチアピン処方頻度は、対照群と比べ警告書送付群で約11%有意に低下、2年後も維持された。
今回の二次解析では、追跡期間を2018年12月まで延長し、MedicareパートDだけでなくパートAおよびBのデータも加え、両群の医師によりクエチアピン処方を受けた患者の転帰を介護施設入所者と在宅生活者に分けて評価した。主要評価項目は、患者のクエチアピン総使用量(90日当たりの使用日数)とし、副次評価項目として質問票と保険請求データに基づくうつ病および代謝疾患の診断、病院などの医療サービスの利用、死亡について評価。さらに、介護施設入所患者については、検証済みの評価尺度を用いて認知機能と行動症状も評価した。
安価な介入で過剰処方を安全に減らせる可能性
同試験の対象とした一般医の処方を受けた認知症患者は、介護施設入所者8万4,881例と在宅生活者26万1,288例で、このうち9万2,874例が試験開始前1年間にクエチアピンを1回以上受け取っていた(ベースライン患者:平均年齢81.5±10.5歳、女性69.2%)。
警告書介入により、介護施設入所患者(対照群10.3日 vs. 警告書送付群10.1日、調整後群間差-0.7日、95%CI -1.3~-0.1日、P=0.02)と在宅生活患者(同9.9日 vs. 8.2日、-1.5日、-1.8~-1.1日、P<0.001)のいずれでも、クエチアピン総使用量が有意に減少した。
介護施設入所患者において、介入による認知機能(対照群2.6 vs. 警告書送付群2.6、調整後群間差0.01、95%CI -0.01~0.03、P=0.19)、行動症状(同18.6% vs. 18.5%、-0.2%ポイント、-1.2~0.8%ポイント、P=0.72)の有意な悪化は認められなかった。また、介護施設入所患者と在宅生活患者のいずれでも、うつ病および代謝疾患の診断に加え、入院や死亡といったより重篤な転帰に対する介入の悪影響は認められなかった。
これらの結果を踏まえ、Sacarny氏らは「行動科学に基づいた安価な介入により、介護施設入所か在宅かを問わず認知症患者へのクエチアピンの過剰処方を安全に減らせることが示された。こうした介入は、今後ガイドラインに沿った診療を促進していく際に有用かもしれない」と結論している。
(小路浩史)