米・University of California, San DiegoのAtul Malhotra氏らは、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの肥満合併閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)に対する有効性と安全性を検証する第Ⅲ相プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)SURMOUNT-OSAの結果をN Engl J Med(2024年6月21日オンライン版)に発表。「チルゼパチドは肥満を伴う中等症~重症のOSA患者の無呼吸低呼吸指数(1時間の睡眠中における無呼吸と低呼吸の回数:AHI)を有意に低下させ、体重を含む副次評価項目も改善した」と報告した(関連記事:「チルゼパチド、FDAが肥満治療薬として承認」)。
OSAの薬物治療は存在しない
OSAでは睡眠中に咽頭虚脱の反復が生じ、無呼吸/呼吸低下が起こる。その結果、低酸素血症や高炭酸ガス血症、反復性覚醒が惹起され、さまざまな臨床症状が現れる。その1つは日中の過度の眠気だが、OSAは心血管疾患の独立危険因子でもある。世界のOSA患者は9億人以上で、うち約40%は中等症~重症との報告もある(Lancet Respir Med 2019; 7: 687-698)。
OSAに対する治療はこれまで、気道陽圧(PAP)療法など、睡眠中の機械的サポートが中心だった。PAP療法はAHIを改善し、OSA関連症状を減らすがアドヒアランスが安定せず、心血管系の有害転帰や死亡を抑制するというエビデンスはない。他の選択肢としては、下顎前方移動療法や舌下神経刺激を含む上気道に対する外科的処置があるが、有効性や適応は限られる。薬物治療については、現時点でOSAを適応症として承認されたものは存在しない。
一方、過剰脂肪はOSAの危険因子であり、OSA治療における体重減量のベネフィットは広く認識されている。臨床ガイドラインでもOSA患者の肥満治療は推奨されていることから、Malhotra氏らはチルゼパチドによるOSA治療の可能性を検討した。
肥満合併OSA患者にチルゼパチドを52週間投与
SURMOUNT-OSA試験は2022年6月~24年3月に9カ国60施設で実施された。対象は、肥満(BMI 30以上、日本のみ27以上)を合併し中等症~重症(AHI 15以上)のOSAと診断された成人患者469例。糖尿病(1型、2型とも)、過去3カ月以内に5kg以上の体重変動あり、OSAや肥満に対する外科的処置の予定、中枢性/混合性睡眠時無呼吸の者は除外した。
ベースラインでPAP療法を受けていなかった患者をトライル1(チルゼパチド群114例、プラセボ群120例)、PAP療法を受けていた患者をトライアル2(同120例、115例)として登録し、トライアル2の患者はPAP療法を継続した。
チルゼパチドは週1回2.5mgから開始し、4週ごとに2.5mgずつ増量。20週までを増量期間として、最大10mgまたは15mgに増量、試験期間は52週間とした。
PAP使用の有無に関わらずAHIは有意に改善
ベースラインの平均AHIはトライアル1が51.5、同2が49.5で、平均BMIはそれぞれ39.1と38.7。52週時におけるAHIのベースラインからの平均変化量は、トライアル1ではチルゼパチド群が-25.3回/時(95%CI -29.3~-21.2回/時)、プラセボ群が-5.3回/時(同-9.4~-1.1回/時)で、推定治療差は-20.0回/時(同-25.8~-14.2回/時、P<0.001)だった。
トライアル2におけるAHIの平均変化量はチルゼパチド群の-29.3回/時(95%CI -33.2~-25.4回/時)に対し、プラセボ群では-5.5回/時(同-9.9~-1.2回/時)で、推定治療差は-23.8回/時(同-29.6~-17.9回/時、P<0.001)だった。
事前に設定された主な副次評価項目〔AHIの変化率(%)、体重減少率(%)、高感度C反応性蛋白(hsCRP)濃度(mg/dL)など〕は、全てプラセボ群に比べチルゼパチド群で有意な改善を認めた。
チルゼパチド群で最も報告が多かった有害事象は消化器関連のものだったが、ほとんどが軽症~中等症だった。
研究の強みについて、Malhotra氏らは「適切なサンプルサイズで実施された国際共同試験であり、従来のOSAの試験では参加割合が少ない女性も約30%含まれていることから、今回の結果は一般化可能な知見といえる」と強調。
限界としては「52週という試験期間は心血管転帰への影響を評価するには短過ぎる。それについては、現在進行中のSURMOUNT-Morbidity and Mortality in Obesity trialでさらなる情報が得られるであろう」と指摘。さらに「過体重や正常体重のOSAを除外した、チルゼパチド投与がPAPのアドヒアランスに及ぼす影響は検討されていない点なども研究の限界である」と付言している。
(木本 治)