食習慣と睡眠の関連を検討した観察研究は、栄養素の摂取状況、睡眠のデータが参加者の事後報告に基づくものが多く、想起バイアスの除去が課題となっている。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)のJaehoon Seol氏、同大学医学医療系教授の岩上将夫氏らと株式会社Asken、株式会社ポケモンの研究グループは客観的データの収集方法としてスマートフォンアプリ「あすけん」および「Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)」を用いて、栄養摂取と睡眠の関連を検討する後ろ向き横断研究を実施。その結果、「蛋白質、炭水化物、食物繊維などの摂取量と定量的睡眠指標の改善に関連が認められた」と査読前論文公開サイトmedRxiv(2024年7月26日オンライン版)に報告した(関連記事:「男女・年齢で異なる不眠症の関連因子を特定」)。

スマホで総睡眠時間、睡眠潜時、中途覚醒率を測定

 食生活記録・改善アプリ「あすけん」は、摂取エネルギー量および栄養素の判定ができ、摂取エネルギー目標値や各種栄養素に関する過不足の表示、体重・体脂肪率の記録およびグラフ化、管理栄養士監修のアドバイス提供などの機能を有する。

 睡眠測定・記録アプリ「ポケモンスリープ」は、スマートフォンを枕元に置いて眠ることで定量的睡眠指標(総睡眠時間、睡眠潜時、中途覚醒率)の測定・記録ができる(関連記事:「ポケモンスリープ」がBMIにも好影響)。

 今回の対象は、あすけんアプリ内で2024年1月19~31日に研究への参加に同意し、2023年7月~24年1月に利用記録がある者。両アプリの利用期間が重複し、その他の期間と比べ、重複期間が利用者の食事・睡眠習慣を代表しているデータを解析対象とした。両アプリの利用期間が7日未満の例、データ欠損例などは除外した。

 主な評価項目は、主要栄養素〔蛋白質、炭水化物、総脂肪(飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸)〕および食品成分〔ナトリウム(Na)、カリウム(K)、食物繊維〕の摂取量、定量的睡眠指標とした。

 各栄養素の摂取量で四分位に分け、総睡眠時間、睡眠潜時、中途覚醒率との関連について、性、年齢、BMIを調整した多変量回帰分析、組成データ解析、isotemporal substitution modelを用いて検討した。

蛋白質と食物繊維が総睡眠時間の改善に関連

 解析対象は4,825人〔平均年齢36.7±10.4歳、女性3,938人(81.6%)、平均BMI 24.8±4.8〕。1日当たりの栄養摂取は、平均総摂取エネルギーが1,662.6±330.3kcal、総摂取エネルギーに占める蛋白質、炭水化物、総脂肪の割合の平均が順に17.7±3.7%、51.7±5.5%、32.3±4.3%、食物繊維が11.7±3.5g、Naが3,486.6±881.0mg、Kが2,295.3±602.1mg、Na/K比が1.6±0.4だった。

 睡眠に関しては、平均総睡眠時間が6.7±1.1時間、睡眠潜時が21.5±12.1分、中途覚醒率が9.9±7.2%だった。

 各栄養素の摂取量が最も少ない第1四分位群を対照群として解析したところ、総睡眠時間の改善には蛋白質および食物繊維の摂取量が関連し、第4四分位群ではともに約10分の増加が認められた。睡眠潜時の改善には食物繊維の摂取量が関連し、第4四分位群では約2分の短縮が確認された他、多価不飽和脂肪酸の摂取量増加による改善も認められた。中途覚醒率の改善には炭水化物および食物繊維の摂取量が関連し、第3・第4四分位群では最大約0.8%の低減が示された()。

図. 栄養摂取と定量的睡眠指標の関連

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(medRxiv 2024年7月26日オンライン版)

Na/K比高値で睡眠に悪影響

 一方、総脂肪の摂取量増加は各種睡眠指標の悪化と関連していた。Na/K比高値は総睡眠時間、中途覚醒率の悪化と関連し、睡眠潜時を悪化させる傾向も見られた(関連記事:「カリウム摂取が塩分取り過ぎを調整?」)。

 Seol氏らは研究の限界として、①今回の結果は栄養摂取と各種睡眠指標の因果関係を示すものではない、②ポケモンスリープは睡眠の測定・記録にゲーム要素を取り入れており、ゲーム内の報酬獲得目的で利用者が実際の睡眠習慣とは異なるデータを入力した可能性を排除し切れない-などを挙げた。

 その上で、同氏らは「食物繊維の摂取量の多さと総睡眠時間、睡眠潜時、中途覚醒率の改善など、複数の栄養素と睡眠に関連が示された」と結論。「睡眠の改善を目的とした食事指導の有効性について、前向き研究の実施が待たれる」と展望している。

(小田周平)