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乱視の未矯正、眼精疲労の原因に
~スマホ普及が助長~

 目を使う仕事を続けることで目の痛みやかすみなどの目の症状のほか、頭痛や肩こりなどの全身症状が現れる「デジタル眼精疲労」で悩むケースが増えている。パソコンやスマートフォンなどの画面を長時間見るなど目を酷使し続けることが主な要因だが、乱視の未矯正も一因とされている。北里大学医療衛生学部の川守田拓志(かわもりた・たくし)准教授は「スマートフォンの普及に伴ってさらにそれが助長されている」と警鐘を鳴らす。

乱視(左)と乱視用コンタクトを装着した場合の見え方の違い(日本アルコン提供)

乱視(左)と乱視用コンタクトを装着した場合の見え方の違い(日本アルコン提供)

 ◇度の合わない眼鏡やコンタクトは大きな要因の一つ

 乱視は目のレンズである角膜や水晶体のゆがみが主な原因で、物を見るときに焦点が1カ所に定まらず、ぶれて見えたりぼやけて見えたりする。治療は眼鏡コンタクトレンズで矯正するのが一般的で、眼内コンタクトレンズやレーシックなどの屈折矯正手術も行われている。ただ、弱い乱視の未矯正を含む度の合わない眼鏡やコンタクトの使用など不適切な屈折矯正が眼精疲労の大きな要因の一つとされている。

 眼精疲労と関連する症候群として、VDT(ビジュアル・ディスプレー・ターミナル)症候群や、近年ではテクノストレス眼症(IT眼症)と呼ばれる状態が知られている。目の疲れや乾き、ピントが合わない、首や肩の凝りなどの全身症状がある。ただ、眼精疲労の症状が現れても、それが眼精疲労であることに気付いていない可能性もあるという。海外の論文では「コンピュータービジョン症候群(CVS)」と言われており、「視覚疲労」や「デジタル眼精疲労」とも表現されている。

 CVSは視界のぼやけや目の乾燥、頭痛などの症状が多く、デジタルデバイスを一日3時間程度使用するとCVSを発症する可能性が高まるとされている。「スマホなどで細かい文字を見る場合や極端に明るいか暗い環境で物を見る場合は眼精疲労になりやすく注意が必要で、特に乱視は暗い環境下で影響がかなり強く出る」と川守田准教授は話す。

 乱視用の処方率は低水準

 コンタクトの輸入販売大手「日本アルコン」(東京都港区)によると、コンタクト使用者のうち、乱視を持っているのは47%だが、乱視用コンタクトの処方は20%にとどまる。川守田准教授はその要因について「医療者の間で強い乱視は矯正し、比較的軽度の乱視については必ずしも積極的に矯正する必要はないという考え方が一定の支持を得てきた」と指摘する。

 また、眼科や眼鏡店では目の屈折異常を測る「オートレフラクトメーター」やレンズを用いた屈折検査で検査をするが、目の構造上、乱視がない人はほとんどいないため、乱視があっても検査員や医者が伝えないケースもある。川守田准教授は「視能訓練士などの検査員や医療者も乱視があるのが当たり前になっているので、自分で聞くまで乱視があることを知らなかったケースも多い」と話す。

 人は文字をある程度推測で読むという特徴があるため、乱視に気付きにくいというのも影響している。川守田准教授は「目に映る像はぶれているが、脳で補完しているので読めないことはなく、それに慣れている人も結構多い」と話す。その結果、疲労がたまってしまったり、読むスピードが遅くなったりすることもあるという。

 アルコンが行った近視用と遠視用のソフトコンタクト使用者へのアンケート調査では乱視症状を持たない人のうち、眼精疲労を感じていると回答したのは37%だったが、乱視症状を持つ場合は56%が眼精疲労を感じていると回答した。一方、乱視用コンタクトなどで矯正することで、読むスピードが上がり、生産性の向上につながるほか、画面などに近づかなくて済むことが報告されている。川守田准教授は「物がきれいに見えたり早く見れたりとメリットがたくさんあるので乱視矯正の価値を知っていただく機会も大事だ」と訴える。

川守田拓志・北里大学准教授

川守田拓志・北里大学准教授

 ◇視距離が近い若年者

 スマホの普及もデジタル眼精疲労の要因の一つで、川守田准教授らが若年者と高齢者の一日の視距離を比較したところ、高齢者は中距離が多かったのに対し、若年者は近距離が55%と大半を占めた。川守田准教授は「スマートフォンを長い時間見ている傾向がきれいに出ている」と分析する。

 海外の論文では大学生の眼精疲労が多いという結果もあり、国内の調査でもスマホを休日に10時間以上使用するケースもあり「寝る直前までスマホを開いているので依存しているとも取れる。それも要因の一つなのではないか」と指摘する。

 乱視かどうかを簡単に調べる方法として川守田准教授は「月を見る」ことを勧めている。「月を見るとぶれ方が分かる。縦ぶれや横ぶれなど人によって結構違うが、程よい大きさで程よい明るさなので良い指標」と川守田准教授は話す。このほかにも星を見たり、スマホで細かい文字を見たりしても分かるという。

 乱視用コンタクトは、目の中でレンズが回転しないよう、一部に厚みを持たせるなど特殊なデザインをしている。その結果、違和感が出たり不快感の原因になったりすることが過去に言われていた。メーカーは装用感や見え方をアピールしており、アルコンの担当者は「最近のレンズでもユーザーの装用感などの満足度が低い。ここを解決するのが乱視用レンズをより多くの方に使っていただくためにとても重要になる」と強調する。

 川守田准教授は「最近は素材改良が進み、違和感は減少して装用感も良くなっている。いろいろ試せるのがコンタクトの大きなメリットなので試してみるのがいいのではないか」と話していた。(江川剛正)


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