スマートフォンなどのデジタル端末を用いた健康管理アプリが普及しつつある。歩数やスクリーンタイムをはじめ、近年では睡眠状態を測定・記録できるアプリも開発されているが、利用者の健康維持・増進に有益かは明らかでない。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)/同大学医学医療系教授の岩上将夫氏らと株式会社ポケモン、株式会社Askenの研究グループは、スマートフォンアプリ「Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)」による睡眠管理の有効性の検証を目的に日本人成人を対象とした後ろ向き観察研究を実施。「ポケモンスリープの利用により睡眠潜時や総睡眠時間などの睡眠関連指標が改善し、睡眠潜時の改善が得られた者ではBMIの低下幅が有意に大きかった」と査読前論文公開サイトmedRxiv(2024年6月29日オンライン版)に報告した(関連記事:「5歳児の睡眠障害、有病率が判明」「『ポケモンGO』でメンタルヘルスが改善」)。

アプリ利用者を90日間追跡

 株式会社ポケモンが2023年にリリースしたポケモンスリープは、睡眠状態を測定・記録できるゲームアプリで、スマートフォンを枕元に置いて眠ると睡眠潜時や睡眠時間などが測定でき、それに基づく睡眠スコアと睡眠タイプの診断、睡眠導入BGM、スマートアラームの提供といった機能を有する。また、ポケモンの寝顔の画像を集める、ポケモンを育成するなどアプリ内の報酬獲得がモチベーションとなり、十分な睡眠を取るように促される。

 岩上氏らは、ポケモンスリープの利用が定量的睡眠指標(総睡眠時間、睡眠潜時、中途覚醒率)を改善しBMIの適正化に寄与するとの仮説を立てた。それを検証するため、ポケモンスリープから各種睡眠指標のデータ、株式会社Askenが開発した食生活記録・改善アプリ「あすけん」からBMIに関するデータを抽出して評価する後ろ向き観察研究を実施した。

 対象は、あすけんアプリ内で2024年1月19~31日に研究への募集に応募した、ポケモンスリープ利用期間が90日以上の両アプリの利用者。ポケモンスリープ利用開始日をベースラインとし、90日間追跡した。

総睡眠時間改善群でも低下傾向

 2024年2月時点での適格者6,052人のうち、2,063人を登録した。

 ベースライン時の背景は、平均年齢が38.3±10.7歳、女性が1,694人(82.1%)、平均BMIが24.1±4.4、平均総睡眠時間が6.2±1.2時間、平均睡眠潜時が19.2±14.2分、平均中途覚醒率が9.1±8.2%だった(総睡眠時間、中途覚醒率は追跡0~6日時の平均値から算出)。なお、ポケモンスリープの利用開始後90日間にあすけんを使用しなかった者、ベースライン時と89日時にBMIの記録がなかった者は除外した。

 ポケモンスリープとあすけんの平均利用日数はそれぞれ64.1±16.6日、59.6±28.6日だった。

 全体の89日時までの経時的変化を解析したところ、総睡眠時間は平均で0.5時間程度増加した一方、睡眠潜時と中途覚醒率には変化がなかった。総睡眠時間(最長約8.5時間)が長く睡眠潜時が短い者ほど、BMIの低下幅が大きい傾向が見られた。

 岩上氏らは、サブグループ解析として①総睡眠時間改善群(924人、44.8%)、②睡眠潜時改善群(374人、18.1%)、③中途覚醒率改善群(504人、24.4%)-に分け、89日時の平均BMIを非改善群(それぞれ1,139人、1,689人、1,559人)と比較した。

 検討の結果、平均BMIは①総睡眠時間改善群では、非改善群と比べ低下幅が大きかったが有意差はなかった(-0.38±2.55 vs. -0.19±2.43、P>0.05、図-A)。②睡眠潜時改善群では、非改善群に比べ有意に低下した-0.51±2.51 vs. -0.23±2.48、性・年齢調整後の群間差-0.36、95%CI -0.56~0.00、P=0.03、図-B)。③中途覚醒率改善群では非改善群との差は認められなかった(-0.27±2.50 vs. -0.28±2.49、P>0.05)。

図. サブグループ解析:平均BMIの経時的変化

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(medRxiv 2024年6月29日オンライン版)

 以上の結果に関して、同氏らは「睡眠指標の改善によるBMI低下の潜在的な機序として、グレリンやレプチンなどの食欲ホルモン、エネルギー代謝の改善が関与していることが示唆される」と考察している。

 同氏らは、研究の限界として①スマートフォンの加速度センサーによる睡眠/覚醒判定の妥当性がポリソムノグラフィー(PSG)やアクチグラフィーと同等かは明らかでない、②両アプリを90日以上利用する集団は健康意識が高いと考えられ、一般集団に外挿できるかについてはさらなる検証が必要-を挙げた。その上で、「睡眠測定・記録アプリは利用者の定量的睡眠指標を改善し、BMIの適正化に資する可能性が示唆された」と結論している。

(小田周平)