抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射は、加齢黄斑変性(AMD)や糖尿病黄斑浮腫(DME)などの網膜疾患に対する治療として主流になりつつある。従来の抗VEGF薬はバイアル製剤であったが、2016年にラニビズマブのプレフィルドシリンジ(PFS、薬剤を充塡した注射器)製剤が米食品医薬品局(FDA)に承認されたのを皮切りに、その後アフリベルセプト2mgおよび6mg、ブロルシズマブのPFS製剤が発売された(関連記事:加齢黄斑変性の新薬発売)。フランス・Clinique MathildeのJoel Uzzan氏らは、抗VEGF薬硝子体内注射におけるPFS製剤とバイアル製剤を比較評価した文献36件についてシステマチックレビューを実施。手技の効率性、臨床医の使用感、安全性においてPFS製剤の評価が高かったことをOphthalmol Ther(2024年7月27日オンライン版)で報告した。
PFS製剤の準備時間はバイアル製剤の約半分
バイアル製剤を使用する場合は、容器の消毒から始まり、溶解液注入針を用いて薬剤を注射器に充塡し、注入用針に交換後、気泡の除去や用量調整という手順を踏んだ上で硝子体内に注射を行う。一方、あらかじめ薬剤が充塡されているPFS製剤では、注射針を取り付ければすぐに注射することができ、手間は格段に少ない。これまで、手順の減少に伴う時間の節約や汚染リスクの低減、手技の安全性および正確性の向上といったメリットが報告されているものの、硝子体内注射においてPFS製剤を選択する明確なエビデンスを示す包括的な研究はなかった。
Uzzan氏らは、MEDLINE、EMBASE、Cochrane Libraryの3つのデータベースから、2015年1月1日~24年2月8日に発表され、網膜疾患に対する抗VEGF薬硝子体内注射において、PFS製剤(ラニビズマブ、アフリベルセプト、ブロルシズマブ)とバイアル製剤を比較した文献のうち適格基準に合致する36件を抽出。評価項目として、手技の効率性、医療資源の使用、医療従事者の使用経験、安全性についてシステマチックレビューを行い、2剤形間での臨床成績や使用体験の違いを調査した。
手技の効率性については11件で報告されていた。そのうち5件ではPFS製剤(ラニビズマブ)とバイアル製剤(ラニビズマブおよび/またはアフリベルセプト)で準備時間を比較しており、前者(40.3~57.9秒)は後者(ラニビズマブで62.8~98.0秒、アフリベルセプトで71.9~79.5秒)に比べ有意に短かった。また、2件ではPFS製剤とバイアル製剤で製品の安定性は同等と報告しており、別の2件ではラニビズマブPFS製剤の使いやすさに言及していた。
PFS製剤に対する使用者の満足度と好感度は高い
医療従事者の使用体験に関しては、6件の報告によると、PFS製剤はバイアル製剤に比べ手技が容易で、迅速かつ安全に投与できると評価されており、満足度や好感度も高かった。
安全性を評価した21件の文献では、眼内炎(感染症)、視力喪失および一時的な視力喪失、注射後の眼圧(IOP)、硝子体内の気泡発生、高眼圧などについての報告があった。眼内炎の発生率は、バイアル製剤(ラニビズマブが0.02~0.05%、アフリベルセプトが0.02~0.06%)に比べPFS製剤(ラニビズマブが0~0.02%、アフリベルセプトが0.01~0.02%)で一貫して低かった。また1件では、注射後の気泡発生率はPFS製剤で低いことを報告していた。
一部の文献では、アフリベルセプトPFS製剤においてIOPの上昇と一時的な視力喪失の発生率がバイアル製剤より高いことが示されており、Uzzan氏は「他のPFS製剤では報告がないことから、バレル直径やプランジャーなどシリンジの設計が投与手技に影響している可能性がある」と指摘している。
主に非ランダム化試験や症例報告の文献を対象にレビューした点に研究の限界があるものの、PFS製剤の使用は、手技の効率性を向上させ眼内炎の発生率を低下させるだけでなく、使用者の満足度と好感度も高いことが示された。同氏は「これらの結果は、PFS製剤を用いた抗VEGF薬硝子体内注射を支持している。時間短縮や安全性の向上といったメリットは、多忙な眼科クリニックにおける診療キャパシティーの拡大に寄与するだろう」と述べている。
(山路唯巴)