近年、多くの研究で環境要因と皮膚疾患との関連が示されているものの、水銀への曝露と乾癬との関連は不明である。中国・Tianjin Academy of Traditional Chinese Medicine Affiliated HospitalのYanan Tuo氏らは、米国民健康・栄養調査(NHANES)のデータを用いて血中総水銀濃度と乾癬の関連を調査。米国成人において血中総水銀濃度が高いほど乾癬発症リスクが上昇し、関連は非糖尿病者で顕著なことが示されたとPLoS One(2024; 19: e0309147)に発表した(関連記事「フレイル指数と乾癬発症が正相関」)。
米国成人6,086人のデータを解析
厚い鱗屑が特徴的な自己免疫性疾患である乾癬。世界の推定患者数は約1億2,500万人に上るとされる。乾癬患者は、全身性の慢性炎症のために心血管疾患の罹患率および死亡率が高いことが明らかになっている。また、乾癬とメタボリックシンドローム(MetS)や糖尿病などとの関連も指摘されている。
水銀への曝露は、フリーラジカルの生成促進を介して多くの疾患を引き起こしやすくする可能性がある。実際、水銀がMetSと糖尿病のリスクを上昇させる可能性が報告されている。一方で、水銀への曝露と乾癬との関連については明らかにされていない。
そこでTuo氏らは、血中総水銀濃度と乾癬の関連を調べる目的で横断研究を実施した。使用したのは、乾癬診断歴の有無などの関連情報が収集された2005〜06年および2013〜14年のNHANESのデータ。2万523人の中から水銀と乾癬の両方に関するデータがそろっている6,086人を解析対象とした。
最高四分位群で乾癬発症のオッズ比が1.45に
6,086人中150人(2.46%)が乾癬を有していた。非乾癬の対照群に比べ乾癬患者群は年齢が高く(平均44.27歳 vs. 41.61歳、P=0.022)、非ヒスパニック系白人が多かった(61.33% vs. 43.55%、P<0.001)。また、トリグリセライド、BMI、ウエスト周囲長、血中総水銀濃度(平均1.92ug/L vs. 1.50ug/L、P=0.027)が高値だった。糖尿病、高血圧症の合併率と、喫煙者、飲酒習慣者の割合も高かった。
未調整モデルの解析において、血中総水銀濃度と乾癬は直線的な関係が見られた〔オッズ比(OR)1.05、95%CI 1.01〜1.10〕。この関係は年齢、性、人種を調整したモデル(同1.05、1.00〜1.10)でも維持された。全ての因子を調整したモデルでは、血中総水銀濃度が1単位上昇するごとに乾癬発症リスクが上昇した(同1.08、1.03〜1.14)。さらに、血中総水銀濃度の最低四分位群を参照とした場合、最高四分位群は乾癬発症リスクが有意に高かった(同1.45、1.10〜2.38)。
糖尿病患者では有意な関連見られず
また、性、年齢、BMI、糖尿病の有無で層別化したサブグループ解析では、糖尿病の有無で血中総水銀濃度と乾癬の関連が有意に異なることが示された(交互作用のP<0.05)。すなわち、非糖尿病者では血中水銀濃度が1単位増加するごとに乾癬発症リスクが有意に(OR 1.05、95%CI 1.01〜1.11)上昇した一方で、糖尿病患者ではこの関連性は認められなかった。
以上から、Tuo氏らは「米国成人において、血中総水銀濃度と乾癬発症リスクは正相関することが分かった。また、両者の関係には糖尿病の有無が大きく影響し、非糖尿病者では血中総水銀濃度が高いほど乾癬発症リスクが上昇する可能性が示された。血中総水銀濃度は乾癬発症リスクを評価する上で有用な指標になりうる」と結論している。
なお、糖尿病の有無で血中総水銀濃度と乾癬発症リスクの関係に違いが見られた原因は不明で、それを明らかにするには人種別の層別解析に基づくさらなる疫学的研究が必要であると付言している。
(編集部・長谷部弥生)