こちら診察室 糖尿病の「A to Z」

飽食の時代と肥満
~2型糖尿病の根本原因~ 第8回

 糖尿病に関する連載も今回で8回目になりました。ここで総論的に一度まとめたいと思います。世界的に見ると、今でも十分な食事を摂取できていない地域もあります。一方で「飽食の時代」を迎えている地域も少なくありません。この「飽食の時代」を迎えて、大きな問題となっているのが肥満です。2型糖尿病の根本の原因はここにあります。見た目が太っていなくても内臓肥満タイプの人もいます。肥満は食事量だけでは説明できず、運動不足・睡眠不足・ストレスなども関係しています。いわゆる現代病と言えるでしょう。その結果、人類そのものの体形も少しずつですが変化してきています。

変化してきた人類の体形

 ◇ニュースの見出しだけで判断しない

 インターネットの普及もあり、糖尿病に関する情報もかなり多く見かけるようになりました。日本人の寿命が延びるとともに、健康への国民の関心も増えてきています。そのような中で、さまざまな生活習慣や食事療法の是非などの情報が氾濫していますが、どのような情報が本当に正しいのかを正確に把握する事はとても難しいのです。と言うのも、糖尿病についての医学的な情報は、ある一定の集団において一定の期間によって得られた結果でしかないからです。さらに言えば、そもそも私たちの生活習慣は本当に人それぞれです。

 そこで皆さんに意識してもらいたい事があります。インターネットなどで発信されるニュースの見出しだけを見て即断するのは危険です。ある臨床研究での結果が自分に当てはまるのかどうか。つまり、対象となっていた患者などの参加者が自分と同じような健康状態の人であるのかという事が肝心です。動物に例えるのはちょっと変ですが、象に関する研究であれば、それが動物園の象を対象としているのか? はたまた野生の象を対象としているのか? 当然ですが、研究対象が違えば結果は違います。ですから、ニュースの見出しだけで判断せずに、まずは対象が自分に近いかどうかを確認してください。

動物園の象(左)と野生の象

 ◇難しい全体像の把握

 さらに少し難しいのですが、研究対象においても、あらゆる角度から結果を検討していないと間違った結果を導き出すことになります。「群盲の象をなでる」という言葉があります。「群盲象を評す」とも言います。群盲とは目の見えない多くの人の集まりという意味です。象をなでるとは、読んで字のごとくではありますが、全体の意味としては、群盲が象をなでた結果、ある人はそれがしっぽ、ある人はそれが壁、またある人はそれが丸太であると考えたという事です。ある一定の角度からだけ物を評した場合は間違った理解を生みます。全体像を把握できない結果になるという意味でもあります。

 研究結果も一緒でしょう。あらゆる角度から検証して全体を見渡した結果、正しい結論に導かれるという事です。糖尿病領域の研究はそのような背景などもあり、全く違った結果が出ることもあります。しかし、それが真の結果である場合には、多くの追随する検証によって裏付けられます。

群盲の象をなでる

 ◇時間がたってから出現する合併症

 一方で、糖尿病のような代謝疾患とは別に急速に研究が進み、治療薬や予防薬の開発まで短期間に進んだ分野があります。直近では新型コロナウイルス感染症です。全世界的に多くの方が短期間に亡くなり、医療界が、いや応なくその対策に迫られました。しかし、ここでも分かったのは、人の生活習慣と疾患との関係を明らかにするのはとても難しいという事です。多くの専門家やAIによる予測が必ずしも正しい結果を導かないのは皆さんも感じていると思います。ですが、幸い、迅速に開発されたワクチンによって、その感染を少しずつ抑えられる方向に向かっています(2021年10月現在)。

 一方、糖尿病の合併症は短期間ではなく、かなり時間がたってから出現します。そのため、確固たる因果関係を説明しにくい場合もあります。また、合併症も眼底出血、心筋梗塞など細小血管障害でも、大血管障害でも直前まで自覚症状を認めない事も往々にしてあります。現状を見ると、2型糖尿病にかかる医療費の多くは、その合併症に費やされています。医療費を抑えながら合併症にならない。早い段階での検査と予防が重要ですが、自覚症状が乏しいとなると具体策を立てにくい事もあります。初期治療には驚くほど費用が費やされていません。合併症が出現した段階で、多くの入院費や薬剤費などがかかっていると思います。

 ◇備えなければ憂いなし

 糖尿病を含めたメタボリックシンドロームは、初期段階では必ずしも薬剤は必要ありません。まずは、心筋梗塞へと近づいていないか、脳梗塞へと近づいていないかなどの評価が重要です。ただ、糖尿病の指標である「HbA1c」の数値が高いからといって、すぐに効果の高いとされている薬剤を使用する必要はないのです。しかし、現状では薬でしか数値を落とせない段階になってから、治療が開始されるケースが多いように見受けます。ぜひ、積極的に検査を受けてみましょう。ガイドラインなども年々、変化します。「備えなければ憂いなし」です。

 最近、米国のフラミンガム研究という健常者を対象とした試験で、食事・運動に気をつけると人生の後半で報われるとの結果が報告されました。メタボリックシンドロームに罹患(りかん)しにくく、心血管病になる確立が減るわけです。(了)

 ▼坂本 昌也(さかもと・まさや)

 医師 医学博士

 国際医療福祉大学 糖尿病・代謝・内分泌内科教授。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長。1997年、東京慈恵会医科大学を卒業。専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では予防医学の観点から糖尿病患者の研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。「最強の医師団が教える長生きできる方法」、「血糖値バイブル」など著書多数。糖尿病治療の啓蒙活動にも力を入れている。

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