「内密出産」や乳幼児を匿名で預かる「赤ちゃんポスト」を巡り、子どもが自分の出自を知る権利の保障などに関する慈恵病院と熊本市の議論が長期化している。同病院の蓮田健院長は「母の匿名性を守ることは前提。子の権利保障との両立は難しい問題だ」と苦悩をにじませる。
 内密出産に関し、国は2022年に指針を公表したが、同病院は出自情報の定義が曖昧などとして、市に検討会設置を要望。昨年5月に同病院と市が共同で検討会を立ち上げ、出自情報の収集や保存、開示の在り方、子どもへの伝達方法などについて議論を重ねてきた。ただ、匿名を希望する親の立場と子どもの知る権利とのバランスをどう取るのかが難しく、報告書の取りまとめにはまだ時間がかかる見通しという。
 蓮田氏は出自情報について、あらかじめ項目を決めずに、母親からの聞き取りの際に得られた情報を基本とするよう主張している。子が情報を求める場合は、親の同意が必要な情報かどうかを専門家らからなる審議会が選別し、開示決定も審議会が行うことが望ましいと指摘した。子どもが請求を何歳からできるかについては「子どもと養育者がそろって開示を求める場合は、年齢制限は不要ではないか」と話した。
 内密出産の初事例からまもなく3年となり、赤ちゃんポストも設置から17年が経過した。蓮田氏は「成人を迎える子もおり、遅きに失したと思っているが、基本的な流れや考え方を決めるには大事なタイミングだ」と期待を示した。 (C)時事通信社