米疾病対策センターのHeidi L. Moline氏らは、2023~24年RSウイルス(RSV)流行シーズンにおける5歳未満児のRSV関連急性呼吸器疾患(ARI)による医療機関受診と入院について、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック前の3 RSVシーズン(2017~20年)と比較する疫学研究を実施。また、2023年より生後初回のRSV感染症流行期を迎える全乳児に推奨されるようになった抗RSV抗体製剤ニルセビマブのRSV感染症予防効果を評価する症例対照研究を行った。その結果、乳幼児のRSV感染症負担はコロナパンデミック前の高さに戻っているが、ニルセビマブ投与で同疾患の医療介入を約9割低減できることなどが分かった。ただし、ニルセビマブの接種率はまだ低く、接種率向上と公平な普及が課題であることも示唆された。詳細は、JAMA Pediatr(2024年12月9日オンライン版)に掲載された(関連記事「小児RSV感染症に福音、長期間作用薬が登場」)。
2023~24年シーズンにおける入院率は生後0~2カ月児が最高
今回の検討には、The New Vaccine Surveillance Network(NVSN)が収集しているデータを用いた。NVSNは、全米の学術的小児医療センター7施設で、RSVを含む小児ARI関連のウイルスについて系統的分子検査とゲノム配列解析を用いた前向き住民サーベイランスを行っている組織である。
疫学研究の対象は、ARIによりこれら施設で医療介入を受けた5歳未満児2万8,689例〔男児57%、女児43%、年齢中央値15カ月(四分位範囲 6~29カ月)〕だった。そのうち2023年9月1日~24年4月30日の登録は9,536例、2017~20年の同期間の登録は1万9,153例だった。高水準医療を受けたのは合計2万8,643例で、このうちRSV感染症は7,504例(26%)、RSV感染症による入院は、全入院1万2,684例中4,507例(36%)だった。
2023~24年シーズンにおけるRSV陽性の割合は、ARIによる受診全体の23%(9,490例中2,199例)で、2017~20年の3シーズンと同様だった。
2023~24年シーズンにおけるRSV関連入院率は、1,000人当たり5.0件(95%CI 4.6~5.3件)で、2017~20年の3シーズン平均値と同程度だった。最も入院率が高かった年齢層は生後0~2カ月児で、26.6件(95%CI 23.0~30.2件)だった。
RSV関連入院に対して有効性93%
ニルセビマブ有効性評価の対象は、2023年10月1日時点で生後8カ月未満の乳児、および同日以降の出生児(すなわち、2023~24年が初RSVシーズンである児)。主要評価項目は、医療機関受診を伴うRSV関連ARIとし、RT-PCRでRSV陽性が確認された児を症例群、陰性だった児を対照群とするtest-negative designで評価した。
合計2,989例を特定し、このうち1,616例で解析が可能だった。ニルセビマブを接種していたのは、症例群765例のうち10例(1%)、対照群851例のうち126例(15%)だった。
ニルセビマブの有効性は、医療処置を受けたRSV関連ARIに対して89%(95%CI 79~94%)、RSV関連入院に対して93%(同82~97%)であった。
229検体においてウイルスゲノムの配列解析を実施したが、結合部位の変異にニルセビマブ接種の有無による差は認められなかった。
今回の研究では、母体RSVワクチンの有効性評価も予定していたが、接種率が低く評価不能だった。
これらの結果を踏まえ、Moline氏らは「米国の乳幼児において、RSV関連ARIによる疾病負担は依然として高かった。今後のシーズンにおいて、 予防製品の接種率向上と公平な普及により公衆衛生上の大きな効果が得られると期待される」と結論づけている。
(医学ライター・小路浩史)