国家公務員共済組合連合会 立川病院(東京都)産婦人科の高橋孝幸氏らは、日本の女子高校生と母親を対象にヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種歴とワクチン情報に対する反応を評価するウェブベースのアンケートを実施。「非接種者の接種意思を最も高めるのはHPV感染の生涯リスクに関する情報のようだ」とVaccine: X2025; 22: 100599)に報告した。

HPVワクチンへの信頼回復は喫緊の課題

 HPVへの持続感染は子宮頸がんの主因とされている。日本では2009年にHPVワクチンが承認され、定期接種の対象となった。政府の積極的なキャンペーンや医療従事者による推奨もあり、1994~99年生まれの接種率は70%を超えたが、2013年初頭に有害事象に関する情報がメディアで広く報道された結果、厚生労働省は同年6月に積極的勧奨を中断。その結果、2000年以降に生まれた対象者のHPVワクチン接種率は1%未満にまで急低下した。積極的勧奨の中断により2020~69年には、回避できたはずの子宮頸がん症例が約1万例生じるとのモデル研究もあり(Lancet Public Health 2020; 5: e223-e234)、ワクチンに対する国民の信頼回復が喫緊の課題である。

 高橋氏らは2021年8月20~24日に15~16歳の高校1年生の女子〔以下、生徒(群)〕473人と同年齢の高校1年生の娘を持つ母親〔同、母親(群)〕326人に対し、スクリーニングのためのウェブ調査を送信。HPVワクチンの存在を知っているかと接種状況を尋ね、非接種生徒および娘が非接種の母親には、今後の接種意思などを尋ねた。

 生徒群のうち245人、母親群のうち245人が次回の詳細な調査への参加に同意。HPVワクチンについての知識に関する質問を行い、回答を得た後、それぞれの答え/情報を提供した。

非接種生徒、娘が非接種の母親のワクチン知識は低い

 詳細調査参加の生徒群(245人)のうち、①ワクチン接種資格と費用(無料)、②有効性ーについて知っていたのはそれぞれ68.7%、63.6%と半数以上だったが、③生涯感染率、④ワクチンの安全性ーについて理解していたのは28.7%、45.3%と少なかった。同じ質問に対する母親群(245人)の認識率は、それぞれ90.2%、92.5%、55.4%、61.1%だった。

 すでにHPVワクチンを接種済の生徒(接種生徒群)では、①~④の認識率は94.7%、84.2%、50.9%、80.7%だったが、接種していない生徒群(非接種生徒群)では、それぞれ64.4%、60.1%、25.0%、39.4%と低かった。

 娘が接種済の母親群では、①~④の認識率はそれぞれ98.2%、98.2%、68.4%、89.5%だった。一方、娘が非接種の母親群の認識率は88.8%、91.5%、53.2%、56.4%と低かった。

生涯感染リスクの啓蒙がワクチン接種意思に最も強く影響

 当初、①~④に関する情報を知らなかった生徒群および母親群にそれぞれの情報を提供したところ、生徒群では、③の生涯感染率についての情報が提供されたときに、ワクチン接種の意思が最も強化された(ワクチン接種に強く賛成21.9%、 ある程度賛成34.8%)。母親群への生涯感染率についての情報提供の結果は、接種に強く賛成が7.7%、ある程度賛成24.4%だった。

 ③生涯感染率に関する情報と比べ、他の3つの情報(①、②、④)提供がワクチン接種意思に与える影響は小さかった。

 高橋氏らは以上の結果をまとめ、「HPVワクチン接種率を改善するには、生徒と母親の認識ギャップを埋めることが重要だ。今回の知見は、ワクチン接種の意思に影響を与えるためには、ターゲットを絞った具体的な情報提供が重要であり、特にHPV生涯感染率に関する情報の提供が重要であることを示すものである」と結論している。

(医学ライター・木本 治)