免疫チェックポイント(CP)阻害薬は、腎細胞がん治療において生存期間の延長をもたらす画期的な薬剤である。しかし、高い効果の半面、全身の臓器に免疫関連有害事象(irAE)を引き起こしやすく、重症irAEの高率な発生が問題となっている。名古屋市立大学大学院臨床薬剤学分野の田﨑慶彦氏らは、重症irAEの発生を予測するバイオマーカーとしての好酸球の可能性を探るため、免疫CP阻害薬を投与した腎細胞がん患者を対象に多施設共同研究を実施し、治療前後の好酸球割合と重症irAE発生との関連を検討。その結果、好酸球の上昇例では重症irAE発生リスクが高いことが明らかとなった(Front Immunol 2025年1月9日)。同氏らは、「免疫CP阻害薬を用いた治療を行う腎細胞がん患者において、好酸球割合の上昇は重症irAEの発生を予測するバイオマーカーとして期待できる」としている。

イピリムマブ+ニボルマブ投与の転移性腎細胞がん患者161例が対象

 過去の大規模臨床試験では、免疫CP阻害薬で治療した腎細胞がん患者の約90%にirAEが発生し、46%に重症irAEが発生したことが報告されている。irAEは免疫賦活に伴う非特異的な免疫反応であり、いつ、どの臓器に生じるかを予測することは難しく、現時点で有効な予測法は確立されていない。

 irAEの重症化を防ぐには、患者自身がirAEの多様な症状をセルフモニタリングし、医療者に申告する必要がある。そして、ひとたび重症irAEが発生したら、たとえ治療効果が得られていたとしても薬剤を中断せざるをえない。そのため、腎細胞がん治療において重症irAEの発生を予測しうるバイオマーカーが求められていた。

 田﨑氏らは今回、重症irAEの発生を予測するバイオマーカーとしての好酸球の可能性を探るため、免疫CP阻害薬による治療を行う腎細胞がん患者を対象に、好酸球割合と重症irAE発生との関連を検討した。

 対象は、日本国内の医療機関8施設でイピリムマブ+ニボルマブを投与した転移性腎細胞がん患者。適格基準を満たす161例を、irAEの重症度に基づき①irAEを発症しなかった54例(非発症群)、②軽症irAEを発症した48例(軽症群)、③重症irAEを発症した59例(重症群)―に分類した。好酸球割合は、免疫CP阻害薬の治療前および治療後2週時点に測定した()。

図.研究のまとめ

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(名古屋市立大学リリースより)

好酸球3%以上上昇で重症irAE発生のオッズ比6

 検討の結果、生存期間の中央値は、非発症群が13.3カ月、軽症群が52.3カ月、重症群が36.9カ月で、軽症群、重症群に比べ非発症群で有意に短かった(いずれもP<0.05)。また、軽症群と比べ重症群で、生存期間が短い傾向が見られた(P=0.06)。

 免疫CP阻害薬による治療開始前の好酸球割合は、非発症群が2.5%、軽症群が3.1%、重症群が2.8%で、非発症群と軽症群(P=0.26)、非発症群と重症群(P=0.75)の間に有意差はなかった()。しかし、治療後2週時点における好酸球割合は、非発症群と軽症群で有意差はなかったものの(3.3 % vs. 5.5%、P=0.33)、非発症群と比べ重症群で有意に大きかった(3.3% vs. 6.6%、P<0.05、)。

 重症irAEの発生予測における好酸球割合の最適カットオフ値は3.0%と算出された(曲線下面積0.653、95%CI 0.53~0.77、感度0.79、特異度0.52)。多変量ロジスティック回帰分析を行ったところ、免疫CP阻害薬による治療から2週後の好酸球上昇が3.0%以上であることと重症irAEの発生に有意な関連が認められた(調整後オッズ比6.01、P<0.05)。

 以上から、田﨑氏らは「免疫CP阻害薬で治療した腎細胞がん患者において、好酸球割合の上昇が重症irAEの発生を予測するバイオマーカーとして有望だ」と結論。さらに「免疫CP阻害薬が適応となるがん種は拡大しており、今回得られた知見は多くの診療科で応用可能だ」と述べるとともに、今後について「好酸球がirAE発生に関与する詳細なメカニズムを解明することで、好酸球を標的としたirAE発生を予防しうる新規治療薬の創出を目指したい」と展望した。

(編集部・比企野綾子)