厚生労働省は昨日(3月5日)付で医薬局医薬安全対策課長通知(医薬安発0305第1号、第2号)を発出し、添付文書の「使用上の注意」の改訂を指示。主なものとしてGLP-1 受容体作動薬のデュラグルチド(商品名トルリシティ)は「重大な副作用」の項に「肝機能障害」を、PD-L1阻害薬のアテゾリズマブ(テセントリク)とアベルマブ(バベンチオ)およびPD-1阻害薬のセミプリマブ(リブタヨ)は「免疫性血小板減少症」を、BRAF阻害薬のダブラフェニブ(タフィンラー)とMEK阻害薬のトラメチニブ(メキニスト)は「好中球減少症、白血球減少症」をそれぞれ新設するよう求めている。また、キメラ抗原受容体発現T細胞 (CAR-T)療法の5製剤については「重要な基本的注意」の項を新設し、「投与後にCAR陽性のT細胞を起源とするリンパ系腫瘍の発現が報告されている、T細胞を起源とするリンパ系腫瘍に関する注意事項」に関する追記を指示している。(関連記事「リクシアナ、キイトルーダに重大な副作用追記」)
デュラグルチド:リラグルチドとの比較で同等の肝機能障害リスク
デュラグルチドについては、同薬を処方された2型糖尿病患者における肝機能障害関連の個別症例報告の集積状況、GLP-1受容体作動薬の注意事項等情報について、肝機能障害関連の記載状況に同クラス薬との差異が認められた。そのため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が医療情報データベースMID-NETを用いて肝機能障害の発現状況を比較する疫学調査を実施した。
使用上の注意の「その他の副作用」の項に「肝機能障害関連事象」が記載されているリラグルチド(商品名ビクトーザ)を対照群とした解析の結果、主要評価項目とした肝機能障害(ASTとALTまたは総ビリルビン・ALP・γ-GTPが同日にグレード2以上を示すと定義)に対照群とデュラグルチド群で差がなかった(ハザード比1.41、95%CI 0.70~2.82)。その他のGLP-1受容体作動薬を参照群とした解析でも発現リスクに大きな差は認められなかったことから、「重大な副作用」の項に「肝機能障害」を新設することが適切と判断された。
アテゾリズマブ、アベルマブ、セミプリマブ:国内外の免疫性血小板減少症関連症例を評価
アテゾリズマブ、アベルマブ、セミプリマブについては、免疫性血小板減少症関連症例を評価した。その結果、アテゾリズマブは国内症例が32例(因果関係が否定できない症例12例)、死亡1例(同0例)、海外症例が29例、死亡1例だった。アベルマブは国内症例が0例、海外症例が10例(同1例)、死亡1例(同0例)、セミプリマブは国内症例が0例、海外症例が1例(同0例)、死亡1例(同0例)であった。
アテゾリズマブとアベルマブは因果関係が否定できない症例が集積された。セミプリマブは因果関係が否定できない症例はないものの、海外の添付文書の記載を考慮し、専門委員の意見聴取なども踏まえ、「重大な副作用」の項に「免疫性血小板減少症」の新設が適切と判断した。
ダブラフェニブ、トラメチニブ:好中球減少症・白血球減少症との因果関係が否定できない国内症例が複数
ダブラフェニブとトラメチニブについては、現行、「副作用」の「その他の副作用」の項で注意喚起している好中球減少症、白血球減少症に関し、国内症例の再評価を行った。その結果、好中球減少症はダブラフェニブが24例(因果関係が否定できない症例17例)、死亡0例、トラメチニブがそれぞれ25例(同18例、ただし1例は適応外使用)、0例だった。白血球減少症は、ダブラフェニブが8例(同4例)、死亡0例、トラメチニブがそれぞれ8例(同4例)、死亡0例だった。
専門委員の意見も聴取し、因果関係が否定できない重篤症例が集積したことから、「重要な基本的注意」の項に「好中球減少症、白血球減少症があらわれることがあるので、本剤投与中は定期的に血液検査を実施するなど観察を十分に行うこと」を、「重大な副作用」の項に「好中球減少症、白血球減少症」を追記した。
CAR-T療法5製剤:海外症例に基づきリンパ系腫瘍に関し共通の注意喚起
CAR-T療法のアキシカブタゲン シロルユーセル(商品名イエスカルタ)、イデカブタゲン ビクルユーセル(アベクマ)、シルタカブタゲン オートルユーセル(カービクティ)、チサゲンレクルユーセル(キムリア)、リソカブタゲン マラルユーセル(ブレヤンジ)については、CAR陽性のT細胞を起源とするリンパ系腫瘍関連症例を評価した。その結果、国内症例はいずれも報告がなかったが、海外症例はアキシカブタゲン シロルユーセルが1例(因果関係が否定できない症例0例)、シルタカブタゲン オートルユーセルが9例(同0例)、チサゲンレクルユーセルが2例(同0例)、死亡1例(同0例)の報告があった。
因果関係は明確でないものの、CAR-T療法3製剤の投与後にCAR陽性T細胞リンパ腫の発現が複数例確認されたことから、他の製剤においても同様の事象が発現する蓋然性が高く、共通の注意喚起を行うことが適切と判断。
専門委員の意見聴取なども踏まえ、シルタカブタゲン オートルユーセルを除く4製剤は、現在「その他の注意」の項に記載されている「CAR 発現T 細胞を含有する他の再生医療等製品において、製品投与後にCAR陽性のT細胞を起源とするリンパ系腫瘍の発現が報告されている」を削除し、「重要な基本的注意」の項に「CAR発現T細胞を含有する再生医療等製品において、製品投与後にCAR陽性のT細胞を起源とするリンパ系腫瘍の発現が報告されている。製品との因果関係は明確ではないが、T細胞を起源とするリンパ系腫瘍の発現には注意すること」を新設。なお、シルタカブタゲン オートルユーセルは、現行の「本品を投与された患者において、CAR陽性のT細胞を起源とするリンパ系腫瘍の発現が報告されている。本品との因果関係は明確ではないが、T細胞を起源とするリンパ系腫瘍の発現には注意すること」という表記を、他4製剤と同一の表記に改訂した。
詳細は、厚労省の「医薬安発0305第1号、第2号」を参照されたい。
(編集部・関根雄人)