ウイルス感染に関わるプロセスの連続的な映像化に成功 ~映像教材としての有用性も期待~
東京理科大学
【研究の要旨とポイント】
ミミウイルスは450nmから800nmと著しく大きい巨大ウイルスで、ウイルスとしては例外的に、光学顕微鏡で観察できます。
今回、このミミウイルスが宿主であるアカントアメーバの細胞内で増殖して放出されるまでの様子を動画で連続的に撮影することに世界で初めて成功しました。
ウイルスの増殖過程の連続動画は学術的価値のみならず、映像教材としての価値も高く、実際、動画を見た学生のアンケートからは高い教育効果が示唆されました。
【研究の概要】
東京理科大学 教養教育研究院 神楽坂キャンパス教養部の武村 政春教授、ヨネ・プロダクションの森岡 加奈子氏、藤枝 愛優美氏は、巨大ウイルスであるミミウイルスを、宿主であるアカントアメーバに感染させ、細胞内で増殖して放出される様子を動画で連続的に撮影することに成功しました。ウイルスの増殖過程の連続撮影としては、世界で初めて成功した例です。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て、人類は常に多種多様なウイルスに囲まれて生きているという認識が浸透しつつあり、世界は今、ウィズ・ウイルス社会を迎えています。こうした新たな様相を呈しつつある社会において、ウイルスについての科学的な理解を深めることは一層重要になってきています。
一般的なウイルスは非常に小さく、電子顕微鏡でしか観察できないため、感染時のふるまいなど、動いている様子はウイルス学者ですら観察することができませんでした。しかし今回、武村研究室で2016年に分離した巨大ウイルスであるミミウイルス・シラコマエと、その宿主であるアカントアメーバを対象とすることで、光学顕微鏡を用いて、ウイルス感染に関わる一連のプロセスを、連続的に映像化することに成功しました。
さらに武村教授らは、得られた動画はウイルスの持つ生物学的意義を理解する上で有用な教材になると考え、講義で学生に映像を見せて、その前後でアンケート調査を行いました。その結果、本映像の視聴によってウイルスの生物学的側面に関する理解が深まったことが示唆されました。
今回得られた動画は、今後ウィズ・ウイルス社会において国際的に必要とされる高校や大学でのウイルス教育に活用できる可能性があります。
本研究成果は、2024年11月8日に米国微生物学会が発行する国際学術誌「Journal of Microbiology & Biology Education」にオンライン掲載されました。
【研究の背景】
インフルエンザウイルスやコロナウイルスなどの病原性ウイルスはヒトに感染し、さまざまな病気を引き起こすことから、盛んに研究が行われています。ウイルスに関する教材はそれほど多くなく、高校から大学院まで、さまざまな教育レベルで幅広い取り組みはこれまであまり行われてきませんでした。
また一般に、病原性ウイルスはサイズが非常に小さいため、光学顕微鏡で観察することができません。そのため、ウイルス学者でさえ、電子顕微鏡を使って固定した、言わば不活化したウイルス粒子を観察することしかできませんでした。
こうした状況を変えたのが、フランスの研究者らが2003年に発見した、いわゆる「巨大ウイルス」であるミミウイルスでした。ミミウイルス粒子は450nmから800nmと著しく大きく、光学顕微鏡下での観察が可能です。そこで研究チームは、2016年に日本で初めて発見されたミミウイルス「ミミウイルス・シラコマエ」に感染した宿主アカントアメーバ細胞の新しい培養法を開発し、高校や大学の生物学の授業で教材として使えるダイナミックな映像教材を作成できるのではと着想しました。
【研究結果の詳細】
ミミウイルスは、緻密な表面繊維の存在とカプシドの巨大さから450nmから800nmと著しく大きく、100倍の対物レンズを用いれば光学顕微鏡でも観察が可能です。しかし、単一の同一のアカントアメーバ細胞内でウイルスが増殖する過程を数時間にわたって観察することは、細胞が活発に動き回るために困難です。
そこで今回、同じ単一の細胞の連続観察を実現するため、寒天含有PYG培地(寒天-PYG)を用いた培養法を開発しました。健康なアカントアメーバ細胞は、この寒天ゲルの下で培養フラスコの表面を活発に動き回るのが観察されました。しかしミミウイルスに感染すると、細胞は徐々に動きが鈍くなり、やがてミミウイルスのウイルス工場(アメーバ細胞質内の独立したコンパートメントで、ウイルスDNA複製を司る部位)が発達し、その表面で新しいビリオン(細胞外におけるウイルスの状態で、粒子構造を持ち、感染性を有する)を産生し始めると、動きが止まりました。この培養法を用いることで、ミミウイルスのウイルス工場内でビリオンが産生され始めてからウイルスが増殖し、細胞を壊して放出されるまでの過程を可視化することに成功しました(図)。
さらに、得られた動画を教材として東京理科大学の生物学、生命科学の授業で使用したところ、一部の学生のウイルスに対する認識が変わり、より科学的・生物学的な見方ができるようになったことが示唆されました。今後、このような映像教材をさらにブラッシュアップさせ、大学や高校の生物学の授業で使用することで、学生・生徒のウイルスに対する理解が深まると期待されます。
図. アカントアメーバ内部でのミミウイルスの増殖から宿主の細胞膜破壊に至るまでのスナップショット(上)とその模式図(下)。緑の線はアカントアメーバの細胞膜、小さなオレンジ色の円はミミウイルス粒子を示す。
研究を主導した武村教授は「ウイルスの増殖と、細胞から放出される様子、その際に宿主細胞が死ぬ様子など、ウイルス感染に関わる一連の事象を、世界で初めて、長いスパンで連続的映像化に成功しました。また、それを映像教材としてウイルス教育に用いる可能性を開いたことも、本研究の重要な成果です」として、ウィズ・ウイルス社会におけるウイルス教育の現場での活用に期待を寄せています。
※本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(20H03078)の助成を受けて実施したものです。
【論文情報】
雑誌名:Journal of Microbiology & Biology Education
論文タイトル:Visualization of giant Mimivirus in a movie for biology classrooms
著者:Kanako Morioka, Ayumi Fujieda, Masaharu Takemura
DOI:10.1128/jmbe.00138-24
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【研究の要旨とポイント】
ミミウイルスは450nmから800nmと著しく大きい巨大ウイルスで、ウイルスとしては例外的に、光学顕微鏡で観察できます。
今回、このミミウイルスが宿主であるアカントアメーバの細胞内で増殖して放出されるまでの様子を動画で連続的に撮影することに世界で初めて成功しました。
ウイルスの増殖過程の連続動画は学術的価値のみならず、映像教材としての価値も高く、実際、動画を見た学生のアンケートからは高い教育効果が示唆されました。
【研究の概要】
東京理科大学 教養教育研究院 神楽坂キャンパス教養部の武村 政春教授、ヨネ・プロダクションの森岡 加奈子氏、藤枝 愛優美氏は、巨大ウイルスであるミミウイルスを、宿主であるアカントアメーバに感染させ、細胞内で増殖して放出される様子を動画で連続的に撮影することに成功しました。ウイルスの増殖過程の連続撮影としては、世界で初めて成功した例です。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て、人類は常に多種多様なウイルスに囲まれて生きているという認識が浸透しつつあり、世界は今、ウィズ・ウイルス社会を迎えています。こうした新たな様相を呈しつつある社会において、ウイルスについての科学的な理解を深めることは一層重要になってきています。
一般的なウイルスは非常に小さく、電子顕微鏡でしか観察できないため、感染時のふるまいなど、動いている様子はウイルス学者ですら観察することができませんでした。しかし今回、武村研究室で2016年に分離した巨大ウイルスであるミミウイルス・シラコマエと、その宿主であるアカントアメーバを対象とすることで、光学顕微鏡を用いて、ウイルス感染に関わる一連のプロセスを、連続的に映像化することに成功しました。
さらに武村教授らは、得られた動画はウイルスの持つ生物学的意義を理解する上で有用な教材になると考え、講義で学生に映像を見せて、その前後でアンケート調査を行いました。その結果、本映像の視聴によってウイルスの生物学的側面に関する理解が深まったことが示唆されました。
今回得られた動画は、今後ウィズ・ウイルス社会において国際的に必要とされる高校や大学でのウイルス教育に活用できる可能性があります。
本研究成果は、2024年11月8日に米国微生物学会が発行する国際学術誌「Journal of Microbiology & Biology Education」にオンライン掲載されました。
【研究の背景】
インフルエンザウイルスやコロナウイルスなどの病原性ウイルスはヒトに感染し、さまざまな病気を引き起こすことから、盛んに研究が行われています。ウイルスに関する教材はそれほど多くなく、高校から大学院まで、さまざまな教育レベルで幅広い取り組みはこれまであまり行われてきませんでした。
また一般に、病原性ウイルスはサイズが非常に小さいため、光学顕微鏡で観察することができません。そのため、ウイルス学者でさえ、電子顕微鏡を使って固定した、言わば不活化したウイルス粒子を観察することしかできませんでした。
こうした状況を変えたのが、フランスの研究者らが2003年に発見した、いわゆる「巨大ウイルス」であるミミウイルスでした。ミミウイルス粒子は450nmから800nmと著しく大きく、光学顕微鏡下での観察が可能です。そこで研究チームは、2016年に日本で初めて発見されたミミウイルス「ミミウイルス・シラコマエ」に感染した宿主アカントアメーバ細胞の新しい培養法を開発し、高校や大学の生物学の授業で教材として使えるダイナミックな映像教材を作成できるのではと着想しました。
【研究結果の詳細】
ミミウイルスは、緻密な表面繊維の存在とカプシドの巨大さから450nmから800nmと著しく大きく、100倍の対物レンズを用いれば光学顕微鏡でも観察が可能です。しかし、単一の同一のアカントアメーバ細胞内でウイルスが増殖する過程を数時間にわたって観察することは、細胞が活発に動き回るために困難です。
そこで今回、同じ単一の細胞の連続観察を実現するため、寒天含有PYG培地(寒天-PYG)を用いた培養法を開発しました。健康なアカントアメーバ細胞は、この寒天ゲルの下で培養フラスコの表面を活発に動き回るのが観察されました。しかしミミウイルスに感染すると、細胞は徐々に動きが鈍くなり、やがてミミウイルスのウイルス工場(アメーバ細胞質内の独立したコンパートメントで、ウイルスDNA複製を司る部位)が発達し、その表面で新しいビリオン(細胞外におけるウイルスの状態で、粒子構造を持ち、感染性を有する)を産生し始めると、動きが止まりました。この培養法を用いることで、ミミウイルスのウイルス工場内でビリオンが産生され始めてからウイルスが増殖し、細胞を壊して放出されるまでの過程を可視化することに成功しました(図)。
さらに、得られた動画を教材として東京理科大学の生物学、生命科学の授業で使用したところ、一部の学生のウイルスに対する認識が変わり、より科学的・生物学的な見方ができるようになったことが示唆されました。今後、このような映像教材をさらにブラッシュアップさせ、大学や高校の生物学の授業で使用することで、学生・生徒のウイルスに対する理解が深まると期待されます。
図. アカントアメーバ内部でのミミウイルスの増殖から宿主の細胞膜破壊に至るまでのスナップショット(上)とその模式図(下)。緑の線はアカントアメーバの細胞膜、小さなオレンジ色の円はミミウイルス粒子を示す。
研究を主導した武村教授は「ウイルスの増殖と、細胞から放出される様子、その際に宿主細胞が死ぬ様子など、ウイルス感染に関わる一連の事象を、世界で初めて、長いスパンで連続的映像化に成功しました。また、それを映像教材としてウイルス教育に用いる可能性を開いたことも、本研究の重要な成果です」として、ウィズ・ウイルス社会におけるウイルス教育の現場での活用に期待を寄せています。
※本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(20H03078)の助成を受けて実施したものです。
【論文情報】
雑誌名:Journal of Microbiology & Biology Education
論文タイトル:Visualization of giant Mimivirus in a movie for biology classrooms
著者:Kanako Morioka, Ayumi Fujieda, Masaharu Takemura
DOI:10.1128/jmbe.00138-24
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(2024/11/14 10:00)
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