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地中海での移民・難民の捜索救助活動を停止──イタリア当局の妨害により船の運用困難に

国境なき医師団

地中海で捜索救助活動にあたってきた「ジオ・バレンツ号」(左)=2023年9月16日 (C) Stefan Pejovic/MSF

国境なき医師団(MSF)は、地中海で行ってきた移民・難民の海難捜索救助活動を停止したと発表した。イタリアの法律と政策によって、これ以上の活動継続が不可能になったと判断したため。これにともない、2021年6月から使用してきた捜索救助船「ジオ・バレンツ号」の運航も停止した。

欧州を目指す移民・難民が危険な航海に出る地中海中央部では、2014年以来、3万1000人を超える人びとが死亡・行方不明となっている。MSFは現在の困難な状況下で捜索救助を行うための活動モデルを精査し、新たな船による活動再開を来年中に目指す。
イタリア当局からの度重なる制裁
過去2年間に「ジオ・バレンツ号」はイタリア当局から4度制裁を受け、合計160日間にわたって港湾での強制的な係留を課された。これらの制裁措置は、海上での人命救助という人道的かつ法的な義務を果たした同船の行為を罰するものだ。


これらの懲罰的措置は、2023年初めにイタリア政府が定めた法律、「ピアンテドージ令」に基づいているが、同政府は今月、制裁をさらに強化し、人道的な捜索救助船の差し止めをより早く簡単に行えるようにした。

救助活動で使ったライフジャケットが並ぶ「ジオ・バレンツ号」の船上=2024年12月7日 (C) Stefan Pejovic/MSF

遠方の港への移動を強いられる
イタリア当局は、海で救助された人びとの上陸先を、遠く離れた港、多くは北部の港に指定してきた。これにより「ジオ・バレンツ号」の人命救助活動や必要な海域への移動はさらに難しくなった。

例えば2023年6月、イタリア当局は、最大600人が乗船可能な同船に、13人の生存者を下船させるため、イタリア北部のラ・スペツィアに向かうよう指示した。より近い港が複数あるにもかかわらず、1000キロ超の航行が必要となった。「ピアンテドージ令」が施行されて以来、「ジオ・バレンツ号」はこの半年間、遭難者の救助よりも、遠くの港との往復に多くの時間を割くことを強いられてきた。
理不尽で合理性のないイタリアの政策
MSFの捜索救助活動責任者であるフアン・マティアス・ギルは、「慎重に検討した結果、理不尽で合理性のないイタリアの制度のもとで活動を続けることは不可能だという結論に達しました。人道的な捜索救助活動は、イタリア当局によって著しく妨げられてきたのです。ここは世界で最も危険な移民・難民ルートの一つであり、MSFはできる限り早く戻ってきます。そしてイタリアをはじめとするEU加盟国などが人びとの命を脅かしていることを証言しなくてはなりません」と話す。


MSFのプロジェクト・コーディネーター、マルゴ・ベルナールは次のように話す。

「イタリアの法律と政策は、地中海を渡ろうとする人びとの命を完全に無視しています。この船で救助した何万人もの生存者がそれを物語ってきました。船上デッキで産声を上げた赤ちゃんや、愛する人を弔った人びとがいるのです。欧州の移民・難民抑止政策は、多くの苦しみをもたらし、多くの人命を犠牲にしています。MSFは人道を優先して粘り強く取り組んでいきます」

2021年6月以降、「ジオ・バレンツ号」は地中海で1万2675人を救助した=2024年12月6日 (C) Stefan Pejovic/MSF

<地中海における捜索救助活動>
MSFは2015年以来、地中海中央部での海難捜索救助活動に取り組んできた。単独または他のNGOとの連携により、これまでに8隻の船を運航し、9万4000人超を救助した。2021年6月から運航してきた「ジオ・バレンツ号」では、190回の救助活動で1万2675人を救助し、安全な場所に運んだ。この間、24人の遺体を収容し、1人の分娩を介助した。


「ピアンテドージ令」が施行されてから2年間、MSFはあらゆる法的手段を尽くして懲罰的制裁と遠距離港での上陸指定に関してイタリアの裁判所に訴えてきた。この結果、強制的な60日間係留命令の一時停止を2度獲得することに成功した。MSFと他のNGOはまた、欧州委員会にも5件の苦情を申し立て、EU法に照らしてこの規制を検討するよう求めているが、これまでのところ聞き入れられていない。
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