Dr.純子のメディカルサロン

アンドロイド患者で医療教育
~ここまできた技術革新の波~ 藤倉輝道・日本医科大学医学教育センター教授

 ◇マネキンからアンドロイドへ

 藤倉 この「シナリオ」は、京都科学(本社京都市)という会社の製品です。人型のシミュレーターではありますが、アンドロイドというレベルではありません。マネキンの域を出ていません。

 しかし、私たちはさまざまな臨床データを事前に入れることで、内科的な疾患であれば、ほぼ全てを提示することができるようにしました。

 「シナリオ」はもともと、看護教育用に使われることが多いのですが、医学教育の内容に合わせてカスタマイズすることが可能です。そこで今回、医学部教育向けとして、救急患者の症例をデータとして入れました。

椅子に座る「SAYA」。よりヒトに近づけるための努力が続く

椅子に座る「SAYA」。よりヒトに近づけるための努力が続く


 海原 この「シナリオ」が進化したのがアンドロイドですね。

 藤倉 アンドロイド型のシミュレーターは、京都科学製の「シナリオ」とは異なり、東京理科大学と共同で開発してきたものです。

 こちらは、現状ではまだ開発段階の医療面接用シミュレーターです。面接用ですので、よりリアルにヒトに似せる必要があります。実際、特に顔の表情がリアルなものになっています。

 「SAYA」とネーミングしました。理科大では6年以上前から開発され、われわれが加わった、医療面接に特化したシミュレーターは、約3年前に開発が始まりました。今後、さらに高機能のAIを搭載したものに進化していく予定です。

 「SAYA」には、目にも内蔵センサーが入っていて、医師役の学生のアイコンタクトの良しあしや、声のトーンの良しあしなどを機械的に評価をできるようになっています。

 ◇日本の匠を生かす

 海原 将来的に医学生の医療面接試験にも使われそうですね。

 藤倉 医学教育は本来、患者さん、すなわちヒトを相手に学ぶことが理想です。実際の患者さんにご協力頂く前に、模擬患者さんにご協力を頂いていますが、やはりマンパワーには限りがあります。

 そこで、このアンドロイド模擬患者や「シナリオ」のような、高性能のヒト型シミュレーターの開発が必要となり、近い将来、これは一般的なものになるでしょう。

 将来的にはAIを搭載して医療面接ができることを目指しています。今回の学会でも、会場の方々に医療場面における質問をしてもらい、それに答えるようなデモをする予定です。

 世界的に見て、日本の匠(たくみ)を生かした、いわば先駆けとなる開発と言えます。そして、このアンドロイド開発を通じて、逆に人間の心という、医療における究極のテーマの研究にもつながると考えています。

(文 海原純子)

 藤倉 輝道(ふじくら・てるみち) 日本医科大学医学部卒、医学博士。東京女子医科大学付属第2病院(現東医療センター)耳鼻咽喉科講師を務め、カナダのマクマスター大学教育研修を経て、同科准教授に就任。日本医科大学武蔵小杉病院耳鼻咽喉科准教授に転じ、2014年に同大学医学教育センター副センター長・医学教育研究開発部門長、15年から同大学医学教育センター教授。

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