人間ドック(上) 早期発見で大病防止 =上手な活用法
健康診断や人間ドックを受診する人は、男性67.2%、女性57.9%にとどまっている(厚生労働省「2013年国民生活基礎調査」)。死亡率の高いがん検診については36%とさらに低く、国が掲げる目標50%に遠く及ばないのが現状だ。病気を早期に発見し健康寿命を伸ばす人間ドックの活用法を探ってみた。
人間ドックの「ドック(dock)」は、船舶用語で船の建設、修理を行う施設のことだ。事故を未然に防ぐため、船を定期的に検査し不備があれば修理する。これをもじったのが人間ドックで、発祥は国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)とされる。
日帰りや1泊2日などコースはさまざまで、料金も施設によって異なる。日本人間ドック健診協会の調査(2013年10月)によると、全国平均は1日コースで4万3539円、2日コースで6万7964円。金額的に安いとはいえず、「自治体や会社の健康診断でいい」と考える人も多いだろう。
それでは、人間ドックと健康診断は何が違うのだろうか。
同病院人間ドックセンターの副センター長、井上博睦(ひろむ)医師によると、大きく異なるのは全身を網羅する詳細な検査項目とその結果を踏まえた具体的なアドバイス、つまりアフターケアの手厚さという。
通常の健康診断では、血液検査で肝臓や腎臓などの機能と血糖、中性脂肪などの簡単な検査項目のみ。これでは、再度病院に受診して改めて詳しい検査を受け直すことになりかねない。これに対して人間ドックでは、詳細な検査項目から健康状態をより的確に評価することができ、さらに生活をどう改善するか、次回はどんなオプション検査を付ければいいか、医師と一緒に画像を見ながらアドバイスを受けられる。健康への意識が高まっている受診当日だから、医師の言葉が心に響きやすい。必要に応じて、医療機関の紹介もできるのが利点だ。
◇豊富な検査項目も魅力
検査の項目数が多い点も、人間ドックの強み。同センターのオプションである肝臓ドックや膵臓(すいぞう)ドックで検査する項目は、体調を崩して専門医を受診したときに受けられる検査項目に十分匹敵する内容だ。採血一つとっても、血糖値や貧血のような基本的な検査ばかりではない。例えば「脂肪酸四分画検査(用語解説)」は、コレステロールだけではないリスクを知るユニークな検査だ。
イワシ、サバなど青魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)は、人の体内では作れない。このため、これらの血中濃度を調べれば、どのくらい魚料理を食べているか、肉をはじめとする動物性脂肪の多い食事に偏っていないか、日ごろの食生活が健康に良いのか悪いのか判定できる。
「メタボリック症候群を調べるのに腹囲を計るだけではなく、一度腹部CT検査での内臓脂肪定量を行い、内臓脂肪の量を実感してほしい。検査で実感が湧けば、具体的な改善に結び付く」と井上医師は指摘する。
◇ポイントはスタッフの質
では受診に当たり、どの人間ドックを選べばよいのだろうか。
施設のホームページ(HP)を見ると、どこでも最新鋭機器がそろうとうたっている。しかし機器が優れていても、最終的には医師の判断が重要。全身状態を的確に評価するには各分野の専門領域に長じるだけでなく、総合的な内科の実力が不可欠だ。まずはHPで、どんな専門医が在籍するのかプロフィルをチェックしてみよう。精密検査や治療まで1カ所で済むのが病院付属の人間ドックの利点だが、病院兼務のスタッフばかりでなく専属スタッフがいるかどうかも見ておきたい。「人間ドックの良しあしは結局、医師をはじめとするスタッフの質。ゆくゆくは国際標準化機構(ISO)による評価も行われる時代になるかもしれない」と井上医師は話す。
日本人間ドック学会のHPでは、学会認定の施設を検索できる。自宅や会社から便利な施設を選んだ上で、検査内容などをよく読んでから予約するといいだろう。(了)
【用語解説】脂肪酸四分画検査 ヒトが体内で合成することができない必須脂肪酸のうち、DHA、EPA、AA(アラキドン酸)、DHLA(ジホモ―γ―リノレン酸)の4種類の血中濃度を採血により調べる検査。
(ソーシャライズ社提供)
〔後半へ続く〕人間ドック(下) 温泉旅行、会員制など多様に =差別化図る施設増加
(2016/11/30 12:33)