医療ADR

「医療は公共財、争いは話し合いで」 =ADR現状と課題、日弁連インタビュー

 ◇東京三弁護士会の対話型モデル

 ―医療ADRの協議は具体的にはどのように進むのか。

 西内 医療事件の特徴として感情的な対立がすごく激しいことが多い。いきなり責任の有無、損害賠償の議論をしてもうまくいかない。それで東京三弁護士会では、訴訟とは違う対話型モデルをスタートした。
 特徴として、協議を2段階(ステップ1、ステップ2)に分けた。「ステップ1」は法律の問題はまず置き、患者に何が起きたのか、何が聞きたいのかを質問し、医療側にはできるだけ答えてもらう。平場の話し合いで相互理解を深めてほしい。その手伝いをあっせん人が行い、それを整理していく。
 その上で問題解決のための調整をすることに双方が同意すれば、再発防止や謝罪条項、損害賠償なども含めた話し合いをする「ステップ2」に移行する形にした。
 医療紛争ではほとんど患者側が申立人になる。責任を問われないなら大枠の説明はしたいと考える医療機関もある。けれども出て行くと、いつの間にかお金の話になって、いくらかでも払いませんかという話になる。そこで不信感、懸念を感じる。だから医療側は話し合いのテーブルに着けず、応諾自体にちゅうちょする。それを踏まえ協議を2段階に分けた。同意がなければ、ステップ2へ進まないという仕組み。東京三弁護士会でやり始めたことですが、他の弁護士会も行っている。

 児玉 紛争解決のモデルの一つは、公正中立な裁判官が、その分野の専門家の鑑定人の意見を聞きながら、全体についての事実認定も判断もしていくという方法。そうすると判断者の判断力と情報量の強化という方向にどんどん動いていく。紛争解決のモデルのもう一つは、当事者間で話し合い解決していく方法。患者側はきちんと説明をしてほしい、向き合ってほしいという気持ち。医療側は患者に謝って正直に伝えたい思い、回復させられず申し訳ないとの気持ち、他方精いっぱいやったという医療の実情を伝えたい気持ちもある。交通整理をしていく中で、紛争解決としての相互理解ができるはずだ。
 ADRを裁判に準ずるモデルで設計するか、対話と共感の場の延長線上に紛争解決があるというモデルで設計するか。
 東京三弁護士会方式では、患者側、医療側の各代理人として頑張ってきた弁護士があっせん人をしている。医療側あっせん人は医療機関から情報提供を引き出す力があるだろうし、患者側あっせん人は患者の痛みや苦しみを理解している。紛争解決に向けてどういう情報をどう伝えれば解決があり得るか、あるいは賠償金を媒介としてどんなことをつくり出せるかということを知っているだろうと。

 日弁連といえば、世間から見れば死刑反対、安全保障法案反対、損害賠償請求では被害者救済の方向で動くイメージがある。医療側は、弁護士が対話と情報共有と相互理解のために動いてくれるのかという疑念がある。弁護士会に行ったらいきなり怒られて、賠償金を請求される。向こうは1000万円と言っていると。それで、半分にまけるから500万円支払えと急に言われるんじゃないかと。医療側の弁護士会に対するアレルギーみたいなものが、ずっとあった。

 西内 医療ADRは医療側が応諾しないとスタートできない。彼らの理解をいかに得ながら進めていくか。感情が激しいのは医療紛争の特徴の一つ。その壁を取っ払わないと始まらない。同時に医療側の懸念、疑念、不安を払拭(ふっしょく)する手続きにしないと応諾すらしてもらえない。それで東京三弁護士会は基本的に対話型モデルを取った。

 ―医療ADRの件数は少しずつ増えているのか。

 松井 東京地裁の新しい医療訴訟が年間150~200件ぐらい。東京三弁護士会の医療ADRは年間60件ぐらい。

 増田 愛知は名古屋地裁の提訴件数が40~50件で、医療ADRも大体同じ40件ぐらい。

 児玉 仙台は医事紛争の少ない地域だが、仙台地裁が年間10件余りで医療ADRは10件を超える。裁判所の件数を上回っているところまできている。東京はもともとマスが大きい所で、しかも患者の権利意識も強い地域。裁判所の新受件数の何割かまでADRが育つと思っていなかった。そういう意味で、想定外に増えたといえる。

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