教えて!けいゆう先生

外科医は切りたがる?
ドラマと現実の違い

 外科医は「切りたがる」というイメージを持っている方によく出会います。人気ドラマで「趣味が手術」という外科医が登場し、術前の会議でも「私に切らせて!」と言ってしまうくらいの「手術好き」が登場する影響もあるのでしょうか。
 確かに、外科医は一般的に手術という仕事が好きだと思います。私たち医師は自由に診療科を選べますから、あえてハードな業務の多い外科を選ぶ以上、手術という治療に魅力を感じているのも事実です。しかし、患者さんに手術を「したがる」かというと、実はそういうわけではありません。

外科医は切ることばかり考えているわけではない

 ◇手術は最終手段

 病気の治療手段はさまざまです。飲み薬や点滴といった薬の治療もあれば、胃カメラ、大腸カメラなどの内視鏡を使った治療もあります。そして、どんな治療にも、副作用や合併症のリスクがあります。

 あらゆる医療行為に、こうしたリスクはつきもの。リスクより、期待できるメリットが上回る時のみ、その医療行為を提供する意味があります。中でも、最もリスクが高いのが手術です。したがって手術は、他の医療行為で治療が難しい時にのみ選ばれる「最終手段」だと言えます。

 ◇合併症は新たな「病気」

 手術は体に傷を付け、時に臓器を摘出するなど、体に大きなダメージを与える治療です。手術後には、さまざまな合併症のリスクがあります。たとえば、全身麻酔の手術を受けた後に、その大きな負担から肺炎を起こしたり、脳梗塞を起こしたりする人もいます。

 大腸がんの手術では、大腸を部分的に切り取り、その上流と下流をつなぎ合わせる必要があります。患者さんによっては、その縫い合わせた部分の治りが悪いことがあります。

 つなぎ目から隙間漏れを起こし、腸の内容物がおなかの中に漏れ出すと、腹膜炎を起こしてしまいます。「縫合不全」という合併症です。こうした合併症は一定の確率で起こりますが、手術をしなければ起こらなかったはずの、新たな「病気」です。

 ◇メリットがあるからこそ

 胃がんの手術では、胃の大部分を切除するケースが多いのですが、残った胃は再生しないため、手術後は生涯、小さな胃で生きていくことになります。一度にたくさんの量を食べられませんし、急いで食べるとおなかの不具合を起こす「ダンピング症候群」と呼ばれる後遺症もあります。

 こうした大きなデメリットにもかかわらず、それを上回る大きなメリットがあるからこそ、手術が行われるわけです。

 ◇なんとか回避したい

 よって、外科医はいつも「何とか手術を回避できないか」と思索しています。手術以外の手段で治療できるなら、それが患者さんにとって間違いなくベターな選択肢だからです。そして、「手術でしか治せない段階」を正確に理解している外科医は、手術を回避できる手段を提案できます。

 その点では、外科医は「切りたがる」どころか、どちらかというと「切りたがらない」と言えます。おそらく腕に自信のある外科医ほど、「切らなくても済む方法」をも同時に考えているからです。(外科医・山本健人)

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