発達障害と重症てんかんを示すドラべ症候群モデルマウスの遺伝子治療
クリスパー応用技術による欠損遺伝子の発現修復-名古屋市立大学
a. マウスScn1a遺伝子プロモーターの構造とgRNAの位置 b. 定量PCRで確認したgRNAのScn1a発現亢進効果 c. ノーザンブロット解析による各gRNA のNeuro2Aマウス培養細胞でのScn1a mRNA増幅効果の評価
【研究成果の概要】
名古屋市立大学大学院医学研究科脳神経科学研究所の山川和弘教授(神経発達症遺伝学分野)らの研究グループは、てんかん・自閉症・知的障害を合併するドラベ症候群モデルマウスであるScn1aナンセンス変異ノックインマウスにおいてクリスパーを応用した技術により抑制性神経細胞のみでScn1a遺伝子の発現を亢進させて半減しているNav1.1を補うことにより、同マウスで見られるてんかん発作、突然死、異常行動などを改善させうることを見出した。
図2:Scn1aRX/+マウスにおける抑制性神経細胞特異的CRISPR-ONの流れ図
山川教授らの研究グループは、マウスのScn1a遺伝子の2つ(上流および下流)のプロモーターのうち、下流よりも上流のプロモーターにおけるgRNAが効率よくScn1a遺伝子の転写を促進することを明らかにした(図1)。また、ヒト SCN1A遺伝子でも同様の結果(上流プロモーターgRNAの高い増幅効率)が得られた。
図3:gRNAを導入したマウスにおけるNav1.1ウエスタンブロット解析。CRISPR-ON処理したScn1aRX/+マウスにおいて大幅なNav1.1量の増加が見られる
続いて、特定の細胞でdCas9-VPRを発現できるマウス(誘導型dCas9-VPRマウス)5とScn1aナンセンス変異ノックインマウス(Scn1aRX/+)を掛け合わせて得られる誘導型dCas9-VPR + Scn1aRX/+マウスを更に誘導型因子を抑制性細胞のみで発現させる抑制性神経細胞誘導発現マウス6と掛け合わせることにより、抑制性神経細胞のみでdCas9-VPRを発現するScn1aRX/+マウスを得た。更にこのマウスにgRNAを発現する遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV)を尾静脈注入することにより、Scn1aRX/+マウスの抑制性神経細胞のみでCRISPR-ONを誘導しScn1a発現の亢進、Nav1.1発現量の増加を目指した(図2)。
図4:CRISPR-ON操作したScn1aRX/+マウスに見られた誘起性てんかん発作(上図)とオープンフィールド行動試験で見られる壁周辺探索行動亢進(不安行動)(下図)の改善
当該マウスの脳のNav1.1タンパク量を測定したところ、実際に大幅な増加が確認された(図3)。
更に、抑制性神経細胞のみでdCas9-VPRを発現するScn1aRX/+マウスにgRNAを導入したマウスでは、gRNAを導入しなかったマウスおよびScn1aRX/+マウスに比べて有意に熱誘起性てんかん発作(てんかん発作を引き起こす体温域値低下)(図4上)や不安行動(図4下)などの改善がみられた。
(2020/05/26 18:57)