医学の窓辺

発達障害と重症てんかんを示すドラべ症候群モデルマウスの遺伝子治療
クリスパー応用技術による欠損遺伝子の発現修復-名古屋市立大学

ドラべ症候群は、生後1年以内に熱誘起性のけいれん発作で発症し、その後非熱誘起性のてんかん発作、自閉症や知的障害などに加えてしばしば突然死を引き起こす重症で難治な疾患であり、約8割の患者から電位依存性ナトリウムチャネル1Nav1.1をコードするSCN1A遺伝子の新生ヘテロ機能喪失変異が見いだされている。

今までに名古屋市立大学大学院医学研究科脳神経科学研究所の山川和弘教授(神経発達症遺伝学分野)らの研究グループは、ドラベ症候群患者におけるSCN1A遺伝子の変異同定と機能解析について多くの報告を行うとともに、Nav1.1が主要な抑制性神経細胞であるパルブアルブミン(PV)陽性神経細胞2で高い発現を示すこと、ドラべ症候群モデルであるScn1aナンセンス変異ノックインマウスにおけるけいれん発作と突然死(Ogiwara et al., J Neurosci 27:5903-14, 2007)、同マウスの記憶学習障害と社会性行動異常(Ito et al., Neurobiol Dis 49:29-40, 2013)、同マウスPV陽性抑制性神経細胞でのNav1.1半減がまさしくてんかん発作、突然死、異常行動などの主原因であり、興奮性神経細胞での半減は逆効果を持つこと(Ogiwara et al., Hum Mol Genet 22:4784-804, 2013; Tatsukawa et al., Neurobiol Dis 112:24-34, 2018)などを報告し、有効で副作用の少ないドラベ症候群の治療法開発にはPV陽性抑制性神経細胞のみでNav1.1の発現回復を目指すことが望ましいこと、興奮性神経細胞でのそれは症状を逆に悪化させる恐れがあることを示してきた。

この度、山川教授らの研究グループは、てんかん・自閉症・知的障害を合併するドラベ症候群のモデルマウスであるScn1aナンセンス変異3ノックインマウスにおいてクリスパーを応用した技術により抑制性神経細胞のみでScn1a遺伝子の発現を亢進させて半減しているNav1.1を補うことにより、同マウスで見られるてんかん発作、突然死、異常行動などを改善させうることを見出した。

クリスパー(CRISPR)技術はDNAの目的とする任意の部分に相補的なガイドRNA(gRNA)によりCas9と呼ばれるDNA切断酵素をその場所に誘導してDNAを切断し組み替える革新的なゲノム編集技術として知られており、最近ではDNA切断活性を失わせたdCas9酵素に転写因子を結合したdCas9-VPRなどの因子により任意の遺伝子の転写を効率よく促進させることができるようになっている(CRISPR-ON)。

山川教授らの研究グループは、ヒトおよびマウスのSCN1A遺伝子の2つ(上流および下流)のプロモーター4のうち上流プロモーターにおけるgRNAが効率よくSCN1A遺伝子の転写を促進しうること、更に複数の上流プロモーターgRNAを組み合わせて利用し、dCas9-VPRをScn1aナンセンス変異ノックインマウスの抑制性神経細胞のみでScn1a遺伝子の発現を亢進させてNav1.1の発現量を補うことにより、同マウスで見られるてんかん発作、突然死、異常行動などを改善させうることを見出した。

以上の結果は、SCN1Aの発現を抑制性神経細胞のみで亢進させることがドラべ症候群の治療法となりうることを示す。

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