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発達障害と重症てんかんを示すドラべ症候群モデルマウスの遺伝子治療
クリスパー応用技術による欠損遺伝子の発現修復-名古屋市立大学


【用語解説】
1)電位依存性ナトリウムチャネル: 細胞の中にナトリウムイオンを入れるために細胞膜上に形成される穴。ナトリウムイオンが通る穴を形成するタンパク質である9種のαサブユニット (Nav1.1~Nav1.9) と、その開閉などを制御する4種のβサブユニット (β1~β4) で構成される。SCN1AはNav1.1を作る遺伝子として知られている。
2)パルブアルブミン(PV)陽性神経細胞: 神経細胞は、興奮性神経細胞と抑制性神経細胞に大きく2つに分けられ、双方が制御し合うことによって脳全体で適切な情報伝達が行われている。神経細胞のうちおよそ8割が興奮性、2割が抑制性の細胞であり、抑制性神経細胞はさらに多様な種類の細胞で構成されている。パルブアルブミン陽性抑制性神経細胞は、パルブアルブミン(PV)というカルシウム結合タンパクを発現する、抑制性神経細胞の約4割を占める細胞で、多くがバスケット細胞、一部シャンデリア細胞などで構成される。PV陽性バスケット細胞は高頻度に発火する細胞で、軸索を興奮性神経細胞の細胞体に投射し、その興奮を強力に抑制している。
3)ナンセンス変異: 遺伝子の塩基配列中のアミノ酸に対応するコドンをストップコドン(対応するアミノ酸が無いコドン)に変化させる突然変異。タンパク質の合成はそこで停止するため、不完全なタンパク質が合成される。もしくは、mRNAが不安定となって分解される結果、タンパク質は合成されない。
4)プロモーター: ゲノムDNAにおいて遺伝子の転写開始を制御する塩基配列の領域。その領域のDNA配列に転写基本因子群とRNAポリメラーゼが転写開始複合体を形成し、mRNAの転写が開始される。
5)誘導型dCas9-VPRマウス: Creリコンビナーゼによって発現が誘導されるdCas9-VPR遺伝子を人工的に導入したマウス。
6)抑制性神経細胞誘導発現マウス: 抑制性神経細胞で発現するVgat遺伝子の発現配列の下流にDNA組み替え酵素のCreリコンビナーゼ遺伝子を人工的に導入したマウス。このマウスを誘導型dCas9-VPRマウスと交配することで抑制性神経細胞だけにdCas9-VPR遺伝子を発現するマウスが得られる。

【研究助成】
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム(融合脳)「Rare variantから迫る発達障害・統合失調 症の診断法・治療法の開発」の分担研究課題「発達障害・てんかんモデルの作成とそれらを用いた治療法の開発(分担研究者:山川和弘)」の助成などにより行われました。

研究成果は、米国科学誌「Neurobiology of Disease(ニューロバイオロジー・オブ・ディジーズ)」に2020年5月21日(米国東部時間)掲載
【掲載された論文の詳細】
【論文タイトル】
CRISPR/dCas9-based Scn1a gene activation in inhibitory neurons ameliorates epileptic and behavioral phenotypes of Dravet syndrome model mice
「抑制性神経細胞でのCRISPR/dCas9によるScn1a遺伝子の発現上昇はドラべ症候群モデルマウスのてんかんと異常行動を改善する」
【掲載学術誌】
「Neurobiology of Disease(ニューロバイオロジー・オブ・ディジーズ)」
DOI番号:10.1016/j.nbd.2020.104954

【著者】
山形哲司 1) 2), Raveau Matthieu 2), 小林憲太 3), 宮本浩行 2) 5), 立川哲也 2), 荻原郁夫 2), 糸原重美 4), Takao K. Hensch 5) 6), 山川 和弘 1) 2) * (*Corresponding author)
 
名古屋市立大学医学研究科脳神経科学研究所神経発達症遺伝学分野1,理化学研究所脳神経科学研究センター神経遺伝研究チーム2, 生理学研究所行動・代謝分子解析センターウイルスベクター開発室3,  理化学研究所脳神経科学研究センター行動遺伝学研究チーム4, 東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構5, 米国ハーバード大学脳科学センター・分子細胞生物学科6

【お問い合わせ先】
《研究全般に関するお問い合わせ先》
山川 和弘(やまかわ かずひろ)
名古屋市立大学大学院医学研究科・脳神経科学研究所・神経発達症遺伝学分野 教授
〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1


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