医学生のフィールド
フリーランス医師・おると先生から学ぶ“ワークライフバランス重視の医師の働き方” 〜やりたいことを精いっぱいやるために、やらなくていいことをやらずに済むために〜
8月23日、「医師のキャリア」を考えるためのオンライン講演会が開催されました。今回の講師は整形外科専門医であり、フリーランス医師として活躍する傍ら、Twitter上で医師の転職やバイトなどのキャリア形成や一般向けの医療情報を発信し、多くのフォロワーを持つおると先生。講演では、多様な医師の働き方やキャリアについてと医療従事者のSNS取り扱いにおける注意点などについて、ご自身の経験を交えながら話をされました。(文:メドキャリ編集部)
2024年4月から、医師にも時間外労働の上限が定められることになりました。しかし救急医療機関や短期間で技術を習得しなければならない研修医などは一部特例として過労死ラインを大きく上回る、年1860時間で進める方向で検討されています。医療機関には労働時間の削減などの努力が求められますが、医学生にとっても将来の働き方に関わる重要な問題です。
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◇自分にとって幸せな働き方を考える
講演は、おると先生から「ヒポクラテスの誓い」および、それを現代化した「ジュネーブ宣言」で掲げられている「医師の自己犠牲の精神」を例に挙げられ、どのように働くことが本来医師にとってあるべき姿なのかという話から始まりました。
現代まで医師はこれらの誓いや宣言を重要視し、「自分の人生のすべてを医療にささげる」ことが美徳とされていました。通常の業務以外に、病院外にいても急患に備えて待機するオンコールや休日診療、診療科によっては月の半分近く夜間も勤務する当直業務をこなします。それに加えて論文作成や学会発表、研究などに費やす時間も必要です。このような医師の身を削った生活により心身が不調となり、最悪の場合、過労死を引き起こしてしまうこともあり、社会問題として近年指摘されてきました。すべての医師にとって労働問題は人ごとではないのです。
「医師である前に一人の人間であり、医師が健康的な生活を送ることは医療行為の質の向上につながる」というおると先生の言葉から、自分の人生に悔いを残さないためにもどのように働きたいのか、一人一人が真剣に考えるべきだと実感しました。
◇「積み上げ思考」と「逆算思考」で理想のキャリアを実現
医師の働き方やキャリアについてのお話の後半では、医師が選ぶことができるキャリアとして、大学病院勤務、開業、フリーランス、その他、医師の多様な働き方について、メリット、デメリットを踏まえてわかりやすく説明していただきました。また臨床以外にも多くの選択肢があるということを知り、「年齢」、「診療科」、「スキル」、「勤務地」、「人生の方針」などの面から、自分に適した働き方を考えることの重要性を学びました。
考え方の方向性には「積み上げ思考」と「逆算思考」があるといいます。人間は目的がないとうまく走れないので、逆算思考をベースに「ゴールに到達するためには?」「今からできることは?」と自分に投げかけるのがよいそうです。ただ逆算思考だけでは掲げた目標以外に何も達成できない恐れがあるため、積み上げ思考を同時に行うことで、必ず達成すべきことを達成し、かつ自分の伸びしろを生かす方法を勧められました。
おると先生ご自身は、複数のクリニックで働いて経営を学ぶということ、医業と生活を両立する生活を実現する、という二つの考え方のもと現在はフリーランスという働き方を選択されています。
現在の自分の働き方が理想と程遠いと自信を無くしまったり、自分が今持っているスキルの範囲内で将来を考えてしまったりすることがたびたびあります。しかし今できるかできないかは関係なく、将来の理想の働き方を実現するため、どの時期にどのような経験をすればいいか具体的に考え行動することの重要性を実感しました。自分ができる最大限の医療と、自分の人生のバランスをとることが重要ではないでしょうか。
◇SNSで気をつけるべきこと
「現代においてSNSは情報収集から娯楽まで、もはやなくてはならない存在となっていることは皆さんも肌で感じているのではないでしょうか?この流れはもちろん医療従事者も例に漏れず、SNSを使ってさまざまなことを発信する医療者も増えてきました。
しかしSNSは使い方を間違えると、炎上や不適切な医師ー患者関係につながるなどのリスクもあり、ときに今後の人生に大きな影を落としてしまう可能性もあります」
最後のトピックとして、医師のSNS使用に関する注意点を教えていただきました。投稿の際、たとえ匿名にしていても、その日の特徴的な出来事や、写真に映る風景などから個人を特定される可能性が高いそうです。発言内容については、その信ぴょう性を確認する、引用や転載の許可を取るなど慎重に扱う必要があるとのことでした。また最近起こった医師によるALS患者の嘱託殺人事件を例に出され、容疑者がTwitter上で本名を特定され、過去の発言までさかのぼって非難を受けたと説明されました。
例えば、実習先や見学した病院に関する情報の安易な投稿や、周りにどう見られるか配慮することなく発信をしてしまっては、先方の病院に迷惑をかけたり、自身のキャリアを傷つけたりするだけでなく、社会的にも影響を及ぼしかねません。SNSは自分自身のアピールや情報収集には欠かせないツールではありますが、発信する際にはくれぐれも気をつけないといけないということを改めて認識しました。
◇一番大切なのは「やりがい」
おると先生は仕事や働き方を考える上で最も大切なのは「やりがい」だと言います。自分のモチベーションがどこにあるのか、どんな時に一番モチベーションが上がるのかなどを日頃から意識することで、自分がしたい医療とキャリアとのバランスの取れた理想的なイメージを描くことができます。環境やいろいろな出会いでやりがいは変わっても、自問自答しながらキャリア選択をしていくことに自信が持てるようになった気がします。(了)
■講演者プロフィル
おると 整形外科医(Twitter ID: @Ortho_FL)
日本整形外科学会専門医、フリーランス医師。Twitterフォロワー数は6.5万人を誇り、一般向けの医療知識を分かりやすく発信している。フリーランス医師として働くかたわら、医師転職・バイト・フリーランスについてのブログ「フリドク」を運営し、日本最大級の医師向け最新医学・医療情報サイトm3をはじめとする多数メディアにて医療連載を執筆している。Youtubeにて「Dr.おるとチャンネル」を開設。2019年発表の著書「フリーランス医師のつくりかたー絶対にフリーランス医師として成功するための解説書ー」(おると著/日本医事新報社)はAmazon1位に輝くなど、幅広い層からの支持を集めて話題となっている。
(2020/10/19 16:05)