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医工連携、地域連携で
国産手術支援ロボの開発に貢献―神戸大学大学院医学研究科・医学部

 神戸大学医学部は、1869年に神戸病院内に設置された医学伝習所が発祥となる。それが県立神戸医科大学に発展、1964年に国立に移管され、今日に至る。基礎医学分野では細胞シグナル伝達、神経科学、感染症の研究に実績があり、最近は医療機器開発への取り組みが盛んだ。初の国産手術用ロボットの開発に大きく貢献し、2020年12月には前立腺がんの第一号手術を成功させたばかり。その立役者でもあり、21年4月より学長に就任する藤澤正人医学研究科長は「医療だけにとどまらず、自治体や産業界とも協力して、独創性のある研究ができるような環境をつくっていきたい」と話す。

藤澤正人医学研究科長

 ◇コロナ後のオンラインの可能性に光

 新型コロナウイルス感染症に関して、神戸大学医学部では講義のオンライン化や実習の感染対策を徹底した結果、クラスターの発生もなく、大きな問題には至っていない。

 「徐々に感染対策の肝要な部分が分かってきたので、実習も再開しました。学外の関連病院の実習も何とか彼らの将来に向けての知識や技術の習得における支障にならない程度にはできると思います」

 臨床のシミュレーションができる機器をフルに活用し、患者のモデルを使った聴診など、コロナ禍の中でも学生に学ぶ機会を与えるよう努めてきた。そうして積み重ねてきた経験を、コロナ後にも生かしていきたいと藤澤医学研究科長は話す。

 「別のキャンパスで行っている教養教育などはオンデマンドでも対応できる。オンラインならiPadさえあれば、どこにいても聞けるわけですし、リアルな空間とバーチャルな空間が共有し、時空を超えるような大学教育がそのうち実現するのではないかと思います」

 朝から座学で一方的な講義を聞くのではなく、講義はオンデマンドやオンラインで受け、対面でディスカッションをすれば、メリハリができる。教員の側も、講義の時間が節約できれば研究にかける時間がつくれるというメリットもある。

 「さらに進むと一つの大学だけではなく、他の大学、海外の大学の授業も受けられて、単位の互換もできるようになれば非常にメリットが大きい。日本全国で、ここしかやっていない講義を聞こうと思ったとき、オンラインなら聞ける。コロナで余儀なく生み出された価値を積極的に活用していきたい」

神戸大学医学部校舎

 ◇医工連携を促進する人材を

 少子高齢化の進展とともに将来、学生となる人口は確実に減っていく。そうした中で、いかに社会に役立つ人間を入学させ、育てていくかは大学として重要な課題だ。

 入試は一般入試(前期)、地域枠、AO入試のほか、研究医枠を設けている。卒業後、基礎医学の道に進みたい学生は、5年生を迎える前に大学院に進むことができる。

 「単にセンター試験、二次試験の成績が飛びぬけて良かったからといって医師になれるとは限りません。しっかりと面接して人物像を評価することが必要です」

 また、これからは医学の知識だけで医療の発展を推進していくことが難しい時代になる。特に、最先端の医療に不可欠な治療薬や医療機器の開発には、医学部、薬学部、工学部などの連携が不可欠だ。そこで、工学部とともに医療機器開発に長けた人材を育成する大学院の設置を計画中だという。

 「医学部と工学部がうまく融合した人材を育成して、社会の中で医療人と技術者をつなげていきたい。そうすることで、新たなイノベーションを創出できる人材が育成できるのではないかと期待しています」

藤澤医学研究科長

 ◇国産ロボットの開発に貢献

 藤澤医学研究科長は兵庫県市川町の教員の家庭に生まれ、地域に総合診療所が一件のみ、という環境で育った。かかりつけ医として地域住民に頼りにされる医師を身近に感じ、「医師になれたらいいな」という思いを漠然と抱いた。

 神戸大学医学部に入学、腎尿路という狭い領域であるが、全身的な外科的・内科的なケアができる科だということで泌尿器科を選んだ。

 「昔はマイナーと言われていた科ですが、泌尿器科は内科的治療、外科的治療のすべてが含まれており、全身的な治療に携われるダイナミックな診療科で魅力的であると思いました」

 高齢化の進展とともに、前立腺がんの罹患(りかん)率はすべてのがんの中のトップになり、医療全般の中で、泌尿器科の役割は以前にも増して大きくなっている。

 「この30年の泌尿器科領域の治療体系の進化は目覚ましいものがあります。開腹手術が腹腔(ふくくう)鏡手術に変わり、今度はロボット支援手術が主流になりつつある。医療機器が大きく治療体系を変えてしまったのです」

 ただ、これまでのロボット(ダヴィンチ)は海外製で非常に高額だった。そこで、藤澤医学研究科長は、地元の企業と協力して、より低価格で現場の医師の声を反映した国産ロボット(hinotori)の開発に貢献した。2020年12月中旬、藤澤氏が自ら国産ロボット(hinotori)を使った前立腺がんの手術を執刀、成功をおさめた。

 「学長になったら、もう手術をする時間がなくなりますから、これが外科医としてのキャリアの締めくくりになるのではないかと思います」

 国産ロボットは、神戸大学のフラッグシップとして、日本のロボット手術普及に大きく貢献し、地方創生にもつながっていくことが期待される。

神戸大学病院

 ◇ここに来て良かったと思える大学に

 「医学部で知識と技術を覚えて卒業したからといって、良い医師になれるわけではない。人間同士のかかわり方、社会適応力を学生のうちにしっかり身に付けてほしい」と藤澤医学研究科長。

 さらに、地元企業と協力して国産ロボットの開発に携わった経験から、「今の時代、一つの大学で物事が進むわけではない。地元の自治体や産業界とも協力し、より独創性のある卓越した研究ができるような環境をつくっていきたい」と話す。

 今春から学長として、神戸大学全体の指揮をとる立場になる。国からの運営交付金が限られる中、外部資金を獲得し、安心して研究に専念できる環境をつくっていきたいという。

 「大学を支えるのは優秀な若手。学生たちが神戸大学の医学部に来て良かったと思って卒業していかれるよう尽力したい。そして、ここで学んだ矜恃をしっかり持って、世の中に貢献していってほしい」(ジャーナリスト・中山あゆみ)

【神戸大学医学部 沿革】
1869年 神戸病院が創立、院内に医学伝習所を設置
    77年 県立神戸医学校を設置
1946年 県立医科大学を設置
    52年 県立神戸医科大学を設置
    64年 神戸大学に医学部が設置、県立神戸医科大学の国立移管を開始
2017年 医学部に統合型医療機器研究開発・創出拠点を設置
             医学部付属国際がん医療・研究センターを設置
    19年 医学部に臨床解剖トレーニングセンターを設置


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