ダイバーシティ(多様性) 障害を持っても華やかに

聞こえない私、日常生活ではどうやって工夫してる?
~運転や子育て、オンライン会議など~ (ソニー出身、デフサポ代表取締役 牧野友香子)【第9回】

 生まれつき耳が聞こえない私がどうやって生活をしているのか、不思議に思われる方も多いかもしれません。実は聞こえなくても運転をすることもできるし、日常生活も工夫次第で過ごしやすくなります!

運転中の牧野さん

運転中の牧野さん

 ▼車の運転

 私の場合、長女に難病があり、NICU(新生児集中治療室)に入院していたことをきっかけに、車の運転免許を取りました。公共交通機関だと病院に行くのが大変すぎて、これは取らないときつい・・・と思ったので産後2週間で教習所に行き、1カ月健診後にはもう免許を取っていました!今思えば本当にハードでした。

 耳が聞こえない私が、車を運転するという話をするとびっくりされることが多いので、聞こえない人=運転できない(免許が取れない)と思っている方が多いのだなと感じています。

 実は90デシベルの警音器が補聴器で聞こえれば(補聴器を着けることを条件に)運転することが可能です。

 加えて、ろう者で補聴器を使わない方はどうなのか?というと、臨時適性検査と安全教育を受けた上で、ワイドミラーや補助ミラーを使用し、車の前後に聴覚障害者標識を付ければ、運転をすることが可能です。

聴覚障害者標識

聴覚障害者標識

 聴覚障害者標識というのは、こんな感じのチョウチョのマークです。実際に付けている車を見たことはありますか?実は、私はいつも気になっていて、運転中に探してみているのですが、いまだに見つけられたことがありません。笑

 聴覚障害者として運転してみて実際どうなのか?というと、運転自体には全く支障は感じません。強いて言うなら緊急車両のサイレンの音が聞こえないので、かなり慎重に周囲の確認をするように気を付けて、ミラーで確認したり、交差点は気にしたりしているということくらいかな、と思っています。

 ▼子供の泣き声に対応できない?

 こちらに関しては生まれてすぐ、一般的に流通しているベビーモニターを導入しました。

 ちなみに、わが家の使い方としては基本的には夜、子供を寝室で寝かしつけた後に使っていました。例えば、キッチンでお皿洗いする時も絶対ベビーモニターのモニターを持っていって、しょっちゅう画面を確認しながら「起きていないかな?」「泣いていないかな?」と見ることができましたし、リビングで洗濯物を畳んだり、洗濯物を干したりと、聞こえなくてもいつでも見られる安心感から、家事がはかどるようになりました。

ベビーモニターを活用

ベビーモニターを活用

 本当に別の部屋にいながら寝室の様子が(モニターで)すぐに見ることができるのはすごく楽でした。

 ちなみに、わが家で持っていたベビーモニターは、モニター側でカメラを自由に動かすことができ、真っ暗闇の中でも画像が鮮明に映るものでしたが、これがあると、真っ暗闇の寝室で何かあってもすぐ映像で見ることができるので、泣き声が聞こえなくても安心でした。

 実はこのベビーモニターの存在を知るまでは、子供が寝た後の時間を常にベッドサイドから見える範囲にいないといけなかったので、それを思うと私にとって、なくてはならなかった神器です!

 また、私だけではなく、聞こえる夫も「なくてはならない!!!」と絶賛していたので、聞こえる聞こえない関係なく便利なものは便利なんだな〜とも感じています。

 そうそう、次女が生まれてからは、長女と遊びながら次女を寝室で寝かせるといったこともできました。泣き声が聞こえないというのはストレスでもありますが、技術の進化が大きく、聞こえなくても子育てがしやすくなっていることをひしひしと感じています。

スマートウオッチ

スマートウオッチ

 ▼目覚ましの音が聞こえないのにどうやって朝起きるの?

 意外とこちらもよく質問されるのですが・・・実は、私は普段は体内時計で起きています。「ええ!?」とよく驚かれるのですが、寝る前に時計を見ながら”6時に起きるぞ!”と思うと、大体その辺りに起きることができるのです。毎朝時間が変わっていても大体大丈夫です!

 実はこれ、みんながそうだと思っていたのですが、そうではないんですね!こちらの技はあまりにも変わっていて、参考になりません・・・よね(笑)

 ただ、そんな私もどうしても起きないといけないときや、出張中などで約束があるときは、必ず起きたいため、スマートウオッチを活用しています。スマートウオッチでアラームを設定し、そのアラームの振動で起きています。この振動も割と強力な上に、スヌーズ設定もあるので問題なく起きることができます。

 そんな弱い振動で起きられるの?と心配されるかもしれませんが、実家を出て1人暮らしをしてからは、緊張感のなせる技でしょうか?携帯やスマートウオッチの振動だけでも問題なく起きられています!

 ▼インターホンの音はどうしてるの?

 こちらもよくいただく質問なのですが、インターホンは、1人暮らしをしているころは聞こえないと困るのでこういったパトライトランプを使用していました。

 すごいパワーでピカピカ光るので、寝ていても目が覚めるくらいのまぶしい光です。子供が寝ていても起きちゃうくらいのハイパワーで光ってくれるので違う部屋にいても気付きます。<パナソニックの光るチャイムを活用していました>

 結婚してからは、私以外の家族が聴こえることと、インターホンがリビングの真ん中にあり、鳴った時にランプの点滅が目に付きやすいこともあり、こういったランプを付けませんでした。

 そして今の時代、宅配ボックスもありますし、置き配も当たり前になってきたので“絶対に”インターホンに気付かないといけないタイミングが減ってきているのも、私にとってありがたい環境です。

 友人知人であれば、携帯を鳴らしてもらえばいいですし、現在は、消防点検などの方が来るときなどに限定されているので、その時間は気にしてリビングで過ごすようにしています。

「音声文字認識ツール」も

「音声文字認識ツール」も

 ▼仕事の時のオンラインミーティングはどうしてる?

 耳が聞こえず、読唇術で会話をしていると、オンラインミーティングは厳しいことが多いんです。実は音声と違って映像は結構止まることが多く、ネット環境が少し悪いとカクカクすることってありますよね?そういうふうに、一瞬だけでも映像が止まると口の動きが読み取れなくなってしまいます。

 なるべくオンラインでのビデオ電話を避けていた私も、コロナ禍になってからは、あっという間にオンラインミーティングが増え、必然的に数をこなすことになりました。

 その中で工夫をしながら、だんだんとオンラインミーティングに対応することができるようになりました。どんなふうにミーティングをしているのかというと、まず、グーグルの音声文字認識や、UDトークといった「音声文字認識ツール」を活用します。そういった音声文字認識と、テレビ電話上の映像に映る口を読みながら会話をしています。今のところ、話の9割くらいは理解でき、わからない部分に関してはチャットで聞いたりすることで補うことができています。

 今の時代、本当に技術の発展のおかげで、聴覚障害のある私にとって圧倒的に昔よりも生活がしやすくなっていますし、社会的なバリアーがだんだん低くなっているのを感じています。(了)

牧野友香子さん

牧野友香子さん

 ▼牧野友香子(まきのゆかこ)さん略歴

 株式会社デフサポ 代表取締役

 生まれつき重度の聴覚障害があり、読唇術で相手の言うことを理解する。

 幼少期にすごく良いことばの先生に出会えたことでことばを獲得し、幼稚園から中学まで一般校に通い、聴者とともに育つ。

 大阪府立天王寺高等学校から神戸大学に進学し、一般採用でソニー株式会社に入社。

 人事で7年間勤務。主に労務を担当し、並行してダイバーシティの新卒採用にも携わる。

 第1子が50万人に1人の難病かつ障害児だったことをきっかけに、療育や将来の選択肢の少なさを改めて実感し、2017年にデフサポを立ち上げ、2018年3月にソニーを退職し、聴覚障害児の支援に専念。デフサポでは聴覚障害児の親への情報提供、ことばの教育、就労支援を中心に実施。

 2020年より多くの人に難聴に興味を持ってもらいたい!とYouTubeでデフサポちゃんねるをスタートする。

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