人工肛門でも支障なく生活
前向きに捉え人生楽しむ(国立がん研究センター中央病院大腸外科 金光幸秀科長)
大腸がんの再発を防ぐために、直腸とともに肛門を切除し、人工肛門を造ることがある。器具の改良も進み、人工肛門になっても大きな支障なく元の生活を送れるようになってきているが、社会の理解が進んでいるとは言い難い。国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)大腸外科の金光幸秀科長に現状と課題を聞いた。
人工肛門を造る方法
▽国内で20万人
金光科長は「がんの再発を防ぐためには完全に取り切る必要があります。肛門近くの下部直腸にがんが見つかった場合、肛門やその近辺も切除しなければならない例があるのです」と説明する。その場合、新たな便の出口を腹部に造ることになる。これが人工肛門だ。
人工肛門や人工ぼうこうのことをストーマと呼び、ストーマを持つ人のことを「オストメイト」と言う。日本オストミー協会によると、国内のオストメイトは約20万人。その大半が人工肛門を持つ人だ。
今年8月に肺炎のため78歳で亡くなった俳優の渡哲也さんも、50歳を目前に直腸がんが見つかり、直腸切断の際に人工肛門を造る手術を受けた。それを自ら公表し、その後も映画やテレビドラマに出演し、オストメイトに勇気と希望を与え続けた。
▽入浴もスポーツも
下部直腸がんで人工肛門を造る手術が必要になる人の割合は、以前より減ってきているという。「当院でこの手術を受ける人は下部直腸がん患者の20%弱です。肛門機能を温存できないのは残念ですが、がんを治して命を守るためにはやむを得ません」と金光科長。その上で「前向きに捉えて、ストーマと共に人生を楽しんでほしい」と助言する。
人工肛門は左下腹部に造られることが多い。直径2~2.5センチ、高さ1~2センチ程度で、梅干しのような形でピンク色か赤色をしている。「医師は形良く造るようにします。患者も慣れれば普通に生活できると言います」と金光科長。
ただ、人工肛門には肛門を開閉する神経や筋肉がないため便意がなく、自分の意思で排せつをコントロールできない。そのため、専用の袋(パウチ)を取り付け、排せつ物を受け止め、たまったらトイレに流す。
金光科長は「パウチを適切に使用すれば、漏れたり、臭ったりすることはなく、誰にも迷惑をかけません」と話す。ストーマ器具は進化し、漏れや皮膚障害を抑える製品が数多く市販されている。入浴やスポーツができるなど日常生活にも何ら制限はないという。その上で「ストーマに関する社会の正しい理解が大切です」と呼び掛ける。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2021/03/07 05:00)
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