あなたはもっと元気になれる

自覚症状のない骨粗しょう症の怖さ
~中高年女性は要注意、コロナ禍で悪化が心配される~ 医学博士 福田千晶

 この季節、地域によっては大雪の報道があり、「骨折する人が多くなりませんように」と願いたくなります。以前、勤務していた大学病院がある東京で雪が積もると、50~60代の中高年女性が骨折の患者さんとしてよく受診されました。足の骨折の患者さんもいますが、積もった雪の上で滑って転んだ時に手をついて、手首を骨折する人がとても多かったと記憶しています。

 東京では雪の日には超高齢者は外出しないためか骨折する患者さんは少なく、むしろ50~60代の人が外出して転倒するのでしょう。私もその世代ですから気を付けたいです。

慣れない都会の雪は危険がいっぱい=2022年1月6日、東京・銀座の歌舞伎座前(AFP時事)

慣れない都会の雪は危険がいっぱい=2022年1月6日、東京・銀座の歌舞伎座前(AFP時事)

 ◇患者数は1000万人以上

 骨も体の他の部位と同じで、加齢により変化します。特に女性の場合、閉経して女性ホルモンのエストロゲンの分泌が減少すると、骨は一気に弱くなります。

 以前は医学界でも「加齢により骨が弱くなるのは自然現象だから病気とは言えない。骨が弱くなり骨折したら病気と考える」という意見もありました。しかし、超高齢社会を迎えたわが国では、骨粗しょう症の定義を現在では「骨強度が低下し、骨折しやすくなる骨の病気」としています。わが国では高齢化に伴い患者数は増加傾向にあり、骨粗しょう症の患者さんが1000万人以上いると言われています。

 骨粗しょう症になっても特徴的な自覚症状はありませんが、転んだ時などに骨折しやすくなります。私の知人でも、くしゃみした時に肋骨(ろっこつ)を骨折したという50代の女性が2人もいます。2人とも骨粗しょう症になっていることに気付いていなくて、骨折して初めて骨密度などを調べて骨密度の低下を知ったそうです。

 別の高齢女性の患者さんでは、朝いつものように寝床から起き上がった拍子に背骨に激痛が走り、受診したら脊椎の圧迫骨折をしていました。その患者さんは少し前に、腰痛で脊椎のレントゲン写真を撮影していました。そのレントゲン写真と比較すると、脊椎が1カ所明らかに潰れていて、圧迫骨折の所見が認められました。起き上がった拍子に生じた痛みは圧迫骨折によるものと判断しました。くしゃみや朝の起き上がりでも骨折すると思うと、骨粗しょう症が怖いことがよく分かります。

 骨粗しょう症がある人は骨折しやすいのですが、特に脊椎(背骨)圧迫骨折、手首の骨折、大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ=太ももの付け根)骨折が起こりやすくなります。高齢者は、大腿骨頸部骨折がきっかけで歩けなくなったり、入院生活や治療のために寝ている日々が多くなることにより認知症になったりすることもあるので、予防したいけがの一つです。骨粗しょう症の対策と共に、生活上で転ばない工夫や配慮も大切です。

くしゃみや起き上がった拍子に骨折することも

くしゃみや起き上がった拍子に骨折することも

 ◇骨密度測定は受けておきたい

 骨粗しょう症は症状が乏しいので、自分でも気付いていない人も多いはずです。身長が2センチ以上低くなった人、背中が丸くなった人などは骨粗しょう症の疑いがあります。慢性的な腰痛の人の中にも骨粗しょう症があり、脊椎で小さな骨折を繰り返し起こしている人もいます。

 骨粗しょう症に関わる骨密度など骨の状態は調べておくことが勧められます。住民健診や人間ドックなどで調べるチャンスがあれば、必ず受けましょう。加齢によって、特に女性では閉経後に骨強度は低下します。しかし、20代の頃に骨がかなり強かった人は高齢になり骨が弱くなっても一般の若者並みということがあります。反対に閉経前でも、無理なダイエットを繰り返してきた人や、病気でステロイドの内服治療をしてきた人、遺伝的に骨が弱い人などは早く骨強度が低下している場合もあり得ます。

 どの病気でも同じですが、骨に対しても早めに状況を知り、その時点でできる予防や治療などの対処をしておくことが望まれます。

適度なカルシウムとタンパク質の摂取を

適度なカルシウムとタンパク質の摂取を

 ◇予防で大切な食事運動

 骨粗しょう症の予防としては、これも他の病気と同様で食事運動が大切になります。食事ではカルシウム、適度なたんぱく質を取ることを心掛けましょう。カルシウムは牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品や小魚から取りやすいです。魚やきのこなどに含まれるビタミンD、納豆や緑色の葉野菜に多く含まれるビタミンKなども骨の健康に大切なので、不足しないように取っておきたいものです。

 また、継続的に運動することで骨にも刺激が加わり、骨を強く維持しようという力が働きます。日光浴も骨の健康には大切ですが、長時間を炎天下で過ごす必要はありません。夏なら木陰で30分間くらい、冬は衣服で覆われる面積が増えますが、1時間くらい屋外で陽の光を浴びればよいとも言われています。

 これも他の多くの病気と共通しますが、大量の飲酒や喫煙をやめることも骨粗しょう症の予防につながります。もちろん、骨粗しょう症で治療が必要と診断されたら、治療を継続することが一番大切です。

運動による刺激が加わると骨を強く維持しようという力が働く

運動による刺激が加わると骨を強く維持しようという力が働く

 ◇心配されるコロナ禍の影響

 コロナ禍も2年になりました。外出が減り、運動量も日光に当たることも減っている高齢者は多いでしょう。買い物も最低限の回数にするため、魚や野菜は摂取量が乏しくなっている人も多いはずです。

 外出を控えるために、医療機関の受診をやめてしまう患者さんがいるのも現状です。特に、自覚症状がない病気や、すぐに生命に支障がない病気の治療のための受診は、自己判断で中断した患者さんも多いのです。おそらく骨粗しょう症も自覚症状が乏しく、すぐに死につながる病気ではないため、治療を中断した患者さんも多いことと思われます。

 いろいろな面から考えても、コロナ禍で発症や悪化、治療中断など心配される病気の一つに骨粗しょう症が挙げられます。心当たりのある人は早めに受診していただきたいです。さらに各地で雪が多いこの冬、雪上で転倒しないように十分に気を付けてください。

 さて、テレビやラジオの番組で骨粗しょう症についてコメントしたことが何度かあります。「こつそしょうしょう」という言葉は、とても言いにくい、出演者泣かせの言葉の一つです。私だけでなく、アナウンサーの皆さまも、本番前に何度も「こつそしょうしょう、こつそしょうしょう、…」と繰り返し練習しました。「骨粗しょう症」という病気にも同様に、しっかり備えたいものです。(了)

福田千晶氏

福田千晶氏


 ▼福田千晶(ふくだ・ちあき)
 慶応義塾大学医学部卒業、医師として東京慈恵会医科大学病院リハビリテーション科勤務を経て、クリニックでの診療と産業医業務を行う。勤務医時代に、エッセーや論文のコンテストでの受賞などをきっかけに執筆活動も開始し、健康に関するテーマで著書や監修書は多数。

 日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本人間ドック学会人間ドック健診専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本体力医学会健康科学アドバイザー。


【関連記事】


あなたはもっと元気になれる