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コロナ禍と腰痛の気になる関係
~在宅勤務で筋力低下、急な運動再開も負担に~ 医学博士 福田千晶

 ちょうど昨年の今頃からでしょうか、診察室で自覚症状が腰痛という人が増えました。ひどい痛みで整形外科を受診した人もいますが、痛みは軽く「腰が気になる」という程度の人もいますから、腰痛の受診者数などの統計に反映されるかどうかは分かりません。

在宅勤務が続くと活動量の低下につながる

 ◇座りっぱなしは腰に負担

 昨年は、1月から新型コロナ感染が拡大し始め、その後は地域によって回数は異なりますが緊急事態宣言もあり、生活がいろいろ変化しました。その中で、腰への影響もあったことと思われます。

 昨年春の緊急事態宣言中は、街中から人の姿が消え、多くの人がステイホームを厳守していました。在宅勤務になった人は、通勤での歩行や電車内で揺れに合わせてバランスを取りながら立っている必要が無くなったのです。足腰の筋力も低下した人が多いはずです。

 家の環境が在宅勤務にふさわしくないのに、せざるを得ない人もいるでしょう。椅子や机が仕事にマッチしていないと、腰に負担がかかることもあるかもしれません。「パソコンの前を離れると、その間に連絡が来たら『サボっている』と思われるから、椅子から立ち上がれない」という理由で、リモートワーク中は、ずっと座ったままということもあるようです。合わない机に座りっぱなしでは、余計に負担がかかります。

 座っていると、立っているより楽に感じますが、腹筋は力を抜いています。その分、上半身の重みや動きは、背中や腰の負担になっています。ですから、長時間の座りっぱなしの作業は腰痛の原因になるのです。出勤すると、仕事中にも他の部署に行ったり、昼休みには食事に出掛けたり、何かと立って歩く機会が有りますが、在宅勤務ではその機会が少なく「座りっぱなし」なのです。

 緊急事態宣言の期間中は、スポーツクラブなどの運動施設も閉鎖となりました。ダンスやヨガのレッスン、地域でのスポーツのサークルもほとんど休止になりました。定期的に体を動かす習慣が中断したのです。

 不要不急の外出は控え、食料品の買い出しも週に1、2度、まとめて購入するようになりました。そんな日常生活での外出の機会さえもが急減し、活動量が低下したわけです。

 ですから、自覚している以上に足腰の筋力は低下したと思われます。さらに、人によっては「コロナ太り」で体重は増加、弱った筋力で増えた体の重みを支えるのですから、足腰への負担は倍増です。

 さらに近年は、腰痛の大きな原因の一つにストレスがあるとも言われているのです。「コロナストレス」が腰痛の一因にもなっているかもしれません。

しばらく休んでいた運動を再開する時は無理をしない

 ◇運動再開は無理せず徐々に

 そんなコロナ禍での生活の中で、腰痛を訴える人が増えた理由をまとめてみました。

①運動不足で筋力低下
②座りっぱなしが腰に負担
③コロナ太りで重さの負担増加
④出勤が再開し、通勤で腰に負担
⑤運動習慣が再開し、腰に負担が増加
⑥コロナストレスが誘引

 このいずれか、もしくは複数が重なり合って腰痛が生じやすいようです。特に今回、特徴的だったと感じるのは、⑤のもともと運動習慣のあった人々です。

 しばらく運動を休止していて「今までの運動不足を取り戻そう」と、やる気満々で急に頑張り過ぎた人が腰痛を起こしているケースが目立ちました。やはり、しばらく休んだ後の再開時には「無理をせず徐々に」が大切だと実感します。

 運動不足の人は散歩を楽しんだり、1キロ先のコンビニまで飲み物を買いに行ったりすることを日課にしてはいかがでしょうか。歩くことと合わせてストレッチもお勧めです。体幹を前屈、後屈、ひねる、脚の筋肉を伸ばすなどをしておきたいものです。

 何をやったらよいか分からない人は、まずラジオ体操をしてみましょう。わずか3分間でできて、とても効率よく全身を動かすことができます。「ラジオ体操?忘れた」という人は、ユーチューブでも見られます。さらに、腹筋と背筋は強化しておきたいので、自宅でできる人は、無理しない範囲から始めてください。

 ◇長引く痛みは必ず受診を

 腰痛は、腰のどこに問題があるかによって、行うべき運動も少し異なります。腰痛という症状があるなら、整形外科かリハビリ科を受診して、どのような状態なのかを診てもらうことが望まれます。さらに「生活上でどのような注意があるか、運動はした方がよいか、どんな運動をすればよいか」を聞いて、運動指導を受けましょう。

 腰痛を運動療法で克服した人はいっぱいいます。生涯大切に使う体ですから、今の時点で少し時間をかけても、きちんと運動の仕方を学んでおくことは重要だと思います。

 腰痛の中には腫瘍が原因のもの、骨粗しょう症が原因のものなど、医療的な治療が必要な腰痛もあります。腰椎椎間板ヘルニア、脊椎分離すべり症、脊柱管狭窄(きょうさく)症のように症状によっては、タイミングを見て手術をすべき腰痛もあります。激しい痛み、長く続く痛み、脚のしびれなど他の症状がある場合には、必ず受診して医師に相談してください。

 在宅勤務は、昨年の最初の緊急事態宣言の時は、準備もなく急に始まった働き方ですが、今後も継続される可能性があります。家の中での仕事場として環境を整える必要があります。長時間の仕事でも、心身に負荷が少ない体勢で仕事に励めるように整えましょう。

 オリンピック観戦で感動すると、その競技を「やってみたい」とか、「学生時代にやった種目を再開したい」と思うことがあります。運動を始めるのは良いことですが、くれぐれも体を痛めない範囲からスタートしましょう。オリンピック選手のフォームをいきなりまねしたり、選手がインタビューで語った練習方法を行ったりすることは無理があります。

 私は医師になって30年以上、「オリンピックに刺激されスポーツを始めたら腰痛になった」という人を4年ごとに何人も診てきました。今年はコロナ禍とオリンピック、腰痛には特に気を付けたい年でもあります。(了)


福田千晶氏

 ▼福田千晶(ふくだ・ちあき)

 慶応義塾大学医学部卒業、医師として東京慈恵会医科大学病院リハビリテーション科勤務を経て、クリニックでの診療と産業医業務を行う。勤務医時代に、エッセーや論文のコンテストでの受賞などをきっかけに執筆活動も開始し、健康に関するテーマで著書や監修書は多数。

 日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本人間ドック学会人間ドック健診専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本体力医学会健康科学アドバイザー。



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