女性医師のキャリア
「女はいらん!」、門前払いで火が付く
~日本初の女性泌尿器外来開設秘話を聞く~ 女性医師のキャリア 医学生インタビュー
2015 ニースで開催されたIUGA国際ウロギネコロジー学会=産婦人科医、泌尿器科医、大腸肛門外科医が診療科の枠をこえてディスカッション
◇QOL高めることで感謝される喜び
尿失禁も骨盤臓器脱も命に関わる病気ではありませんが、「スポーツや旅行が好きなのに、尿漏れのことが気になってできない」、「ぼうこうが下がってきて指で押し戻さないとおしっこが出なくて、いつも憂鬱(ゆううつ)」、そういう人たちは手術や薬、生活の指導をすることで、快適な生活が送れるようになることが少なくありません。「諦めていた旅行に行けた」と、うれしそうに旅先のお土産を持ってきて感謝してくれる患者さんを見ていると、この診療科を選んだことを誇りに思います。
入り口では門前払いされそうになったけれど、泌尿器科は他の診療科と比べても、革新的な医師が集まっていて、新しいものに理解を示し、自分のやり方を押し付けない人が多い。また、泌尿器科、産婦人科、外科が入り交じっての学会で、診療科間でいがみ合うことがなく、和気あいあいとした、とても良い雰囲気なのも特徴です。
◇産後に脳梗塞、1カ月で復帰
実は、37歳の時に脳梗塞を発症しました。病院で手術の合併症について患者さんと家族に説明をしている時に、唾液が飲み込めなくて「おかしいな」と思い、後でトイレに行って鏡をみたら片方のまぶたが垂れ下がって左右で違っている。恥ずかしながら、その時は脳梗塞だと気付かず、そのまま帰宅。翌朝、起きたら、真っすぐに歩けなくなってしまっていて、即入院となりました。
出産後、1年もたっておらず、乳飲み子を残して入院することになり、夫に心配をさせて相当泣かせましたが、幸い大きな後遺症もなく、1カ月で仕事に復帰することができました。このような状況の中、一時は仕事を続けられないかもしれないと思いました。サポートしてくれた上司や同僚、そして学会仲間の存在は非常に大きく心から感謝しています。
ウイーンでの朝食
◇スーパーウーマンを目指さなくて良い
女性が医師の仕事を続けるために、家庭とどのように両立するかアドバイスを求められることがよくあります。私は女性泌尿器科の仕事が本当に楽しいと思ってやっています。ただ、仕事が楽しいと思えるようになるためには、やはりある程度は努力して頑張らなければいけない。
頑張ると、どうしても家庭生活に影響が出る。私の場合は、教師だった夫の帰宅が早く、家事に対して協力的だったことで大変助けられました。さらに、実家の近くに住んでいたので困ったときは、いつでも母にヘルプしてもらえたことが大きかったです。
ただ、最近は家事や育児をサポートしてくれるいろいろなサービスがあります。夫や親に家事を手伝ってもらうのが難しくても、大変なときには家事を外注したり、外食でもいいと言ってくれるフレキシブルな人を選んだりして、そのためのお金は惜しまずに使う。
100%完璧な主婦や100%のスーパーウーマンを目指さなくても良いので、人の助けをどんどん借りて良いと思います。お金を稼ぐことだけが目的で仕事を選んだり、家事と両立するために、やりたい仕事を諦めたりという生き方もあるかもしれませんが、せっかく大変な勉強を頑張ってきたのですから、自分が心から楽しいと思える仕事に就いて、医師としてのやりがいを感じてもらいたいです。(了)
聞き手:白川礁(帝京大学医学部6年)、文:稲垣麻里子、企画:河野恵美子(大阪医科薬科大学 医師)
【加藤久美子医師の経歴】
1982年 名古屋大学医学部卒
86年 同大学院医学研究科修了
87年 米国ペンシルヴェニア大学泌尿器科研究員
89年より英国セント・ジョージ病院産婦人科臨床研究員
90年 名古屋第一赤十字病院勤務、女性泌尿器外来を開設
2006年 女性泌尿器科を開設、部長に就任
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(2022/07/05 05:00)
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