加藤久美子 医師 (かとうくみこ)

名古屋第一赤十字病院

愛知県名古屋市中村区道下町3-35

  • 泌尿器科
  • 部長

泌尿器科 婦人科

専門

女性泌尿器疾患、神経泌尿器疾患

加藤久美子

尿もれや骨盤臓器脱(性器脱)に伴う排尿障害など、女性泌尿器医療のパイオニア。1986年名古屋大学で日本初の女性尿失禁外来を立ち上げ「良性疾患だがQOLに関わる領域を大切にしたい」と黎明期からライフワークとして関わってきた。同院では1990年に女性泌尿器外来を開設、2006年から独立した診療科として、泌尿器科・婦人科と連携した総合的な治療を行っている。症状やタイプに合わせたきめ細かな治療も特徴。手術実績も3,000例を超える。

診療内容

加藤医師が尿もれに取り組み始めたのは、約25年前。当時はまだ専門の外来もない時代、当直の晩に思いついて「咳をすると尿がもれませんか? 泌尿器科にお気軽にご相談ください」とワープロで打ち出し、夜中に女性トイレに貼って回り、翌朝事務の方から大目玉を喰らったという。「良性疾患だがQOLに関わる領域を大切にしたい」が信念。女性の身近な悩みをサポートしたいとライフワークとして取り組んでおり、尿もれに悩む女性たちの相談に応えるwebサイト(http://www.nyoucare.jp/)でも相談医として活動している。
中高年女性の3人に1人は経験しているという尿もれは、生命に関わる疾患ではないが「咳やくしゃみでもれる」「待ったが効かない」など日常生活への影響はきわめて大きい。女性に多いのは、骨盤底部の尿道と肛門の間に腟という第三の出口があるから。このため妊娠・出産や加齢で骨盤底の結合組織が緩むと、咳や運動で漏れる「腹圧性尿失禁」、子宮や膀胱が下に下がる「骨盤臓器脱」の二大疾患が起こりやすくなる。また、膀胱が勝手な収縮を起こす過活動膀胱は、男女双方で加齢とともに増加するが、女性では尿道が弱いために、頻尿、尿意切迫感にとどまらず「切迫性尿失禁」まで起こる例が多い。同院では、タイプや症状に合わせた治療を行い、症状の改善によるQOLの向上に貢献している。
「腹圧性尿疾患」は、骨盤底が緩み、腹圧がかかったときに尿道が腟の方に下がって開きやすくなったことから起こる。咳やくしゃみでもれるため、花粉症や風邪のときの悩みは深刻。悪化すると小走りや歩行でももれてしまう。軽症の場合は骨盤底トレーニングが有効だが、重症の場合は手術がよい選択肢になる。「TVT手術(恥骨後式)」は、腹部からポリプロピレンメッシュのテープを通して中部尿道をサポートする術式で、世界で100万人以上が受けており、長期成績は5年で治癒85%、改善10%と良好。近年は、膀胱や腸管を傷つける恐れのないより安全な手術として、テープを足のつけ根から通す「TOT手術(経閉鎖孔式テープ)」を行うことが多くなった。加藤医師は「症状が中等度でも受けやすく、手術に対するハードルが低くなりました。医学的に見てもバランスがよい手術だと思います」と評価する。同院では2泊3日で実施、約800例の実績がある。傷は腹部(TVT手術)か足の付け根(TOT手術)に5㎜のものが2カ所、腟に15㎜と目立たず、手術前の剃毛も不要、術翌日からシャワーを浴びることができる。
「骨盤臓器脱」は、骨盤底の緩みから腟から子宮が出てきたり、腟の壁と一緒に膀胱や直腸が下がってくる一種のヘルニア。筋腫などで子宮を摘出した後でも、腟の壁が裏返って下がることもある。入浴時にピンポン玉状のものに触れる、歩行時や排便時に下がって不快といった症状を伴うことが多い。従来はリングペッサリーの使用や子宮を摘出し腟壁を縫い縮める手術が行われてきたが、最近ではTVT・TOT手術と同じ材質のメッシュを使用し、緩んだ骨盤底の靱帯や筋膜を補強する「TVM手術」が主流である。手術による身体への負担が軽い、入院期間が短い、傷の痛みが少ない、子宮の温存が可能、再発が少ないなど利点が多く、同院では約2,000例の実績がある。
「切迫性尿失禁」は、尿をためる袋(膀胱)が小さく過敏なことが原因。トイレで下着を下ろす間や玄関先やトイレに入った拍子に我慢できずもれる(ドアノブ尿失禁)、炊事で冷たい水に触れる、水の音を聞くといった刺激でもれる(手洗い尿失禁)など、日常生活での負担が大きい。同院では「排尿日誌」をもとに水分摂取や尿量のパターンを見て生活指導を行うほか、抗コリン薬、β3作動薬を用いて膀胱の容量を広げ、勝手な収縮をおさえる治療を行っている。また、新しい治療法としてボトックス膀胱壁内注入にも期待を寄せている。「過活動膀胱は40歳以上の日本人の12.4%が当てはまり、加齢でさらに増加します。尿失禁全般を見ると、近年、新しい薬や手術法が開発されてきました。戦う武器を得て、骨盤底医療にはずみがつきそうです」(加藤医師)

医師プロフィール

1982年 名古屋大学医学部卒
1986年 同大学院医学研究科修了
1987年 米国ペンシルヴェニア大学泌尿器科研究員
1989年より英国セント・ジョージ病院産婦人科臨床研究員
1990年 名古屋第一赤十字病院勤務、女性泌尿器外来を開設
2006年 女性泌尿器科を開設、部長に就任

「女性泌尿器(尿失禁)」を専門とする医師