治療・予防

日本、結核「低まん延国」入り
~外国人対策が新たな課題に~

 国内の新規結核患者が2021年に人口10万人当たり初めて10人を切り、日本は「低まん延国」の仲間入りを果たした。かつては「国民病」「不治の病」などと恐れられた感染症だが、長年の継続的な対策が実を結び、一定程度克服した格好だ。この先も当面は改善傾向が続くとみられるものの、発病者が比較的多い外国生まれの居住者の増加など新たな問題も出てきている。

結核罹患率の推移(2021年結核登録者情報調査年報)

結核罹患率の推移(2021年結核登録者情報調査年報)

 ◇目標達成

 「世界に誇れる成果だ」。国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)の高崎仁医師は、低まん延国への移行についてこう述べた。結核は世界の三大感染症の一つ。政府が20年の低まん延国入りを目標として掲げていただけに、達成が1年遅れたとはいえ、関係者からは率直に評価する声が上がる。

 厚生労働省が8月30日に発表した結核に関する調査結果によると、21年の国内の新規患者数は前年比9.6%減の1万1519人。人口10万人当たりに換算した罹患(りかん)率は9.2と前年を0.9下回り、世界保健機関(WHO)が定めた低まん延の基準を満たした。死者は3.4%少ない1844人だった。

 ただ、21年のデータに関しては新型コロナウイルスの影響が考えられるという。外出をためらう人が増えたり、保健所がコロナ患者への対応に忙殺されたりして受診件数が減り、患者数が押し下げられている可能性がある。22年度以降の推移についても注意深く見ていく必要がありそうだ。

 ◇特効薬発見、健診充実が奏功

 患者数は1990年代後半の一時期を除いて一貫して減ってきた。戦後間もない50年は発病者が年間約60万人、死者が12万人余に上ったが、その後、特効薬となる抗生物質「ストレプトマイシン」の発見や栄養状態、生活環境の改善などにより急激に減少。併せて、乳児へのBCG接種、健診の充実・拡大など地道な取り組みが功を奏し、近年も減少傾向を維持している。

 WHOの推定では、米国の結核罹患率(20年、以下同)は2.4。スウェーデン、オランダ、デンマークも5を下回る。米以外の先進7カ国(G7)メンバー国を見ても軒並み日本より低い水準だ。同じ低まん延国といっても欧米との開きはなお小さくないが、高崎医師は日本に関し「2025年までに罹患率7までの低下が目標とされている」と話し、差は着実に縮小していくとみている。

高崎仁医師

高崎仁医師

 ◇多剤耐性菌患者に留意必要

 今後の結核対策のポイントは何か。高崎医師が挙げるのは、外国で生まれ日本に入ってくる留学生や就業者への対応だ。同医師によると、低まん延国は現在、総じて外国人が発病者の中心。米国だとおおむね1対2の割合で外国人が多い。日本の患者に占める外国人の比率はまだ11%余にとどまっているものの、同比率は年を追うごとに上昇。20代ではすでに70%を超えている。在留外国人の多くが若者という事情を反映した結果で、この層の発病を抑制しないと罹患率の一段の低下に支障を来しかねない。

 在留外国人に関連してもう一つ留意しなければならないのは、薬剤への耐性を持つ「多剤耐性結核」患者の多さだ。この患者の場合は治療薬が異なり、治療費用がかさむとともに治療期間も長引く。「日本では年間50人ほどとまれだが、外国人の若者からの感染が増えると国内の多剤耐性結核患者の比率が上がりかねない」(高崎医師)と危惧されている。

 ◇水際で阻止

 対策の一つとして、政府は「入国前結核スクリーニング」の実施を予定している。日本国内で患者数が多いフィリピン、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、ミャンマーの6カ国を対象とした制度で、中長期在留希望者に対して発病者ではないという証明の提出を求める。いわば患者の入国を水際で食い止める措置だ。調整の遅れでまだ実施に移されていないが、今年度か来年度には始まるとみられている。

 次の段階としては、血液検査の「IGRA」が想定される。結核は感染すれば必ず発病するというわけではなく、発病者は感染者の1~2割程度にすぎない。このため、スクリーニングだけでは感染者の一部しか把握できない。IGRAは感染の有無を判定できる手法で、スクリーニングと併用すれば、外国人感染者への有効な対策になり得る。「次のステップとして期待される」(高崎医師)という。

 ◇「せき2週間続いたら受診を」

 結核の症状はせき、たん、発熱、倦怠(けんたい)感など風邪によく似ていることもあり、受診が遅れるケースが少なくない。その間に周囲の人にうつしかねず、早めの検査が重要だ。特に、免疫力の低下とともに発病しやすくなっている高齢者は注意が必要。高崎医師は「日本には1800万人ぐらいの感染者がいるといわれる。高齢者は多くの感染者が潜んでいるとの認識を持ち、毎年、健康診断を受けてほしい」と話す。高齢者以外についても「2週間たってもせきなどが続く場合は結核の可能性があり、周りの人も受診を促すなどしてほしい」と呼び掛ける。(了)

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