治療・予防

治療が難しい多剤耐性結核
薬を服用し耐性獲得を防ぐ

 かつて「死の病」と恐れられ、今では薬で治る病気となった結核。ところが、薬が効かない「多剤耐性結核」が出現している。日本での発生率はそれほど高くないが、今後、感染者が増える危険性はあるのだろうか。公益財団法人結核予防会結核研究所(東京都清瀬市)の吉山崇企画主幹に聞いた。

国内の結核患者数・死亡数の推移

国内の結核患者数・死亡数の推移

 ▽複数薬での治療が鉄則

 結核結核菌に感染して肺に炎症を起こす病気で、重症化すると死に至ることもある。日本では、年間1万7000人強(2017年推計)が発症しており、死亡者数は2000人近くに上る。

 くしゃみやせきから空気感染し、感染した場合の発症率は、結核ワクチンのBCG接種を受けた人で5~10%。ほとんどは飲み薬で治せるが、3、4種類の抗菌薬を6カ月服用しなければならない。1種類だけだと薬が効かなくなる耐性菌が現れるため、複数の薬を併用するのが鉄則だ。厚生労働省が推奨するのは、最も抗菌作用の強力なリファンピシンとイソニアジドを軸に、ピラジナミドとエタンブトールもしくはストレプトマイシンを組み合わせる4剤併用療法だ。

 ▽予後不良の結核

 近年、問題となっているのは、リファンピシンとイソニアジドの両剤に耐性を獲得した多剤耐性菌による結核だ。吉山企画主幹は「これらは結核治療の要となる薬。2剤とも使えなくなると、薬の選択肢が一気に狭まります。治療に難渋するケースも少なくありません」と説明する。

 多剤耐性結核が起こる原因として、副作用のために治療を中断したり不規則に薬を服用したりする、といったことがある。多剤耐性結核患者の経過は不良であり、治療も長期にわたる。日本での治療成功率は約7割だが、死に至ることも少なくない。ただ、14年に多剤耐性肺結核に対する初の抗結核薬デラマニド、18年にはベダキリンが登場し、治療の選択肢は拡大している。

 日本の結核患者における多剤耐性結核の割合は、治療歴のない人の1%程度、治療歴のある人でも4%で、世界的に見ると高いとはいえず、増加傾向にはない。吉山企画主幹は「国内で多剤耐性結核が急増するとは考えにくく、危機感をあおる必要はありません。しかし、その制圧は容易ではないのも事実です。重要なのは菌に耐性を作らせないこと。治療中の人は薬を全種類きちんと飲んでほしい。副作用が出ても自分の判断でやめたりせず、医師に相談をしてください」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)


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