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薬物療法に反応しない双極性障害のうつ状態に対し反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)を先進医療Bで実施中 ~新たなニューロモデュレーション治療の保険適用・薬事承認を目指す臨床研究~

 東京慈恵会医科大学附属病院、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院、慶應義塾大学病院は、3機関多施設共同で、薬物療法に反応しない双極性障害*のうつ状態の患者さんを対象に、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS *:repetitive transcranial magnetic stimulation)による臨床研究を先進医療B *で実施しています。

 双極性障害は抑うつエピソード(気分の落ち込みや興味・関心の喪失などが生じる状態)とその対極にある躁病・軽躁病エピソード(気分が異常に高揚する状態)が現れ、これらをくりかえす疾患と考えられています。双極性障害の経過の中で、抑うつエピソードの占める期間は長いことが知られており、薬物療法が奏効せずに治療に難渋することがあります。実際の臨床場面では、治療抵抗性双極性障害の抑うつエピソードに対して有用で利用可能な治療法が必要とされています。

 経頭蓋磁気刺激(TMS)は、ファラデーの電磁誘導*の法則を応用して生体を非侵襲的に直接刺激する技術です。コイルに瞬間的に電流を流し、周囲に形成される変動磁場を伴う渦電流によってニューロンを刺激します。TMSを反復して行う治療法を反復経頭蓋磁気刺激(repetitive TMS:rTMS)と呼びます。

 これらの背景を踏まえ、3機関多施設共同で、薬物療法に反応しない双極性障害のうつ状態の患者さんを対象に、rTMSの有効性と安全性を検証し、医療機器の薬事承認および保険適用を目指します。

■臨床研究について

1.対象

(1) 精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, DSM-5)の双極性障害(typeⅠおよびtypeⅡを含む)、抑うつエピソード(抑うつの症状が認められる状態のこと)の診断基準に合致する患者さん(急速交代型である場合は除く)。
(2) 年齢が20歳以上75歳以下
(3) HAMD17*の総得点が18点以上
(4) 最近の抑うつエピソードが3年未満
(5) 現在の抑うつ状態において、次にあげる薬物療法のいずれかを8週間以上投与しても反応しない。
※臨床研究の実施期間に抗うつ薬は投与いたしません。
① リチウム0.8mEq/L以上の適切な血中濃度となる処方量 /日
② クエチアピン300mg /日
③ オランザピン5-20mg /日
④ ラモトリギン200mg /日
⑤ ルラシドン20-60mg /日

2. 実施方法
 rTMSには、MagProR30(MagVenture,Denmark)を使用します。刺激条件は、刺激頻度1Hz、刺激強度120%MT、刺激時間1,800秒、刺激回数1,800回(30分)とし、右前頭前野への低頻度刺激を週5日、4週間行います。

3. 検査期間:4週間の介入後、6ヶ月間の観察を行い症状の経過を評価します。

4. 症例登録期間
2019年3月1日~2027年2月28日まで

5. 先進医療にかかる費用
自己負担なし。
診察料や処方箋料に加えて検査などは通常の保険診療となり、費用がかかります。

■用語解説

*双極性障害
 双極性障害は米国精神医学会が刊行した精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders; 5th ed: DSM-5)において定義された病名です。気分が異常に高揚する躁病・軽躁病エピソードと、気分の落ち込みや興味・関心の喪失などが生じる抑うつエピソードという二つの極性(双極性)が存在します。躁の重症度によって、躁病エピソードが出現する双極I型障害、軽躁病エピソードが出現する双極II型障害に分類されます。抑うつエピソードの期間が最も長く、薬物療法が奏効せずに治療に難渋することもあります。再発率が高く慢性の経過をたどることが多い疾患です。自殺リスクが高いことも知られています。

*rTMS
 経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation: TMS)は、ファラデーの電磁誘導の法則を応用して生体を非侵襲的に直接刺激する技術です。コイルに瞬間的に電流を流し周囲に形成される変動磁場を伴う渦電流によってニューロンを刺激します。規則的な刺激を反復して行うものを反復経頭蓋磁気刺激(repetitive TMS:rTMS)と呼び、高頻度刺激は皮質興奮性に対して促進的に作用し、1Hzの低頻度刺激は抑制的作用を有することが知られています。本試験では1Hzの低頻度刺激を用いて実施します。

*ファラデーの電磁誘導の法則
 コイルなどの導体が磁束の変化を受け、誘導起電力が発生することを電磁誘導あるいは電磁誘導作用といいます。ファラデーの法則は、その誘導起電力の大きさがその回路を貫く磁界の変化の割合に比例するというものです。この法則は19世紀前半にイギリスの物理学者マイケル・ファラデーによって発見されました。

*先進医療
 先進医療とは、患者さんの①安全性の確保、②負担増大の防止、③治療選択肢の拡大、
④利便性の向上という観点から、有効性、安全性を確保するために、施設基準を設定し、承認された保険医療機関で、将来的な保険導入のための評価を行うものとして保険診療との併用を認める制度です。
 先進医療は「先進医療A」と「先進医療B」に分類されています。
 先進医療Aは「未承認等の医薬品や医療機器の使用、または適応外使用を伴わない医療技術、もしくは、未承認、適応外であっても人体への影響が極めて小さいもの」を指します。一方、先進医療Bは「未承認等の医薬品や医療機器の使用、または適応外使用を伴う医療技術、もしくは、未承認、適応外使用を伴わない医療技術であっても、当該医療技術の安全性、有効性等に鑑み、 その実施に係り、実施環境、技術の効果等について特に重点的な観察・評価を要すると判断されるもの」を指します。

*HAMD17
 ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton's Rating Scale for Depression; HAM-D/HDS)は、Hamilton(1960)によって作成された、うつ病と診断された患者さんにおける、うつ症状の重症度を測定するための評価尺度です。抑うつ気分や興味・関心の減退等のうつ症状に関する全21項目から構成されており、本尺度はHamilton(1967)によって、臨床的妥当性と信頼性が確認されています。なお、本臨床研究では、長崎大学医学部精神神経科教室(1996)によって翻訳・ガイドラインの作成されたHAM-D日本語版を使用します。

■先進医療実施届出情報(参考)
・研究名称:薬物療法に反応しない双極性うつ病への反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の有効性と安全性:ランダム化二重盲検偽刺激対象比較試験
Efficacy and safety of repetitive transcranial magnetic stimulation in the treatment of medication-resistant bipolar depression: a randomized,double-blind,sham-controlled trial(EASyS-BD)
・平易な研究名称:双極性障害抑うつエピソードへの反復経頭蓋磁気刺激療法
Repetitive transcranial magnetic stimulation for bipolar depression(rTMS)
・先進医療技術の名称:反復経頭蓋磁気刺激療法
・申請医療機関:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院
・協力医療機関:東京慈恵会医科大学附属病院、慶應義塾大学病院
・臨床研究等提出・公開システム https://jrct.niph.go.jp/
  臨床研究実施計画番号jRCTs032180138
・先進医療告示番号30


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