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日本初のスタルガルト病に対する全国13施設によるコホート解析研究 遺伝子治療を見据えた日本人の遺伝学的・臨床的特徴についての解明―東京慈恵会医科大学

東京慈恵会医科大学眼科学講座の溝渕圭助教、林孝彰教授、中野匡講座担当教授らは、全国12の眼科施設と共同で日本におけるABCA4関連網膜ジストロフィ (以下、スタルガルト病) の遺伝学的および臨床的特徴について明らかにしました。本研究は、日本人のスタルガルト病の遺伝学的・臨床的特徴について明らかにした日本初の報告となります。本研究内容は、2023年に開催された第62回日本網膜硝子体学会総会で優秀演題に選出され、また、眼科学分野のトップジャーナルの1つで、140年前に創刊され歴史あるAmerican Journal of Ophthalmology誌に2024年3月16日付けで掲載(online ahead of print)されました。
スタルガルト病は今後、日本でも遺伝子治療が行われる可能性が高い疾患であります。将来的には遺伝子治療の介入を判断する上で発症早期に当たる小児症例における進行に関連した眼底所見の変化といったことについての研究に重点を置き、解析を行う予定です。

【スタルガルト病と研究に至る経緯】
常染色体潜性遺伝形式をとるスタルガルト病はABCA4遺伝子の両アレル変異によって発症する遺伝性網膜ジストロフィ (Inherited Retinal Dystrophy: IRD) の1つであり、欧米においては最も頻度の高いIRDとして、世界的に治療すべき最重要疾患として認識されています。比較的早期に発症し、重篤な視機能障害を呈することから、当該疾患については、現在進行系で遺伝子治療や内服治療などの臨床研究も行われています。
しかしながら、日本では、全国規模での臨床研究が今まで行われていませんでした。スタルガルト病の発症頻度は欧米と比較して約1/5程度であり、日本では希少疾患であることから、多施設共同研究が重要と考えられていました。今回の共同研究開始に至っては、本学が中心となり、全国12の眼科施設の協力を得て、日本人の臨床研究を開始するに至りました。本研究内容は、2023年に開催された第62回日本網膜硝子体学会総会において、日本人のスタルガルト病の遺伝学的・臨床的特徴について明らかにした日本初のレポートであり、当該学会総会の優秀演題に選出されるとともに、American Journal of Ophthalmology誌に2024年3月16日付けで掲載(online ahead of print)されました。

【対象・方法】
対象
以下の条件に合う日本人の症例を対象としました。
条件1:スタルガルト病の原因であるABCA4遺伝子変異が両アリルに同定されていること
条件2:表現型が黄斑ジストロフィ、錐体(杆体)ジストロフィ、網膜色素変性のいずれかを呈すること

方法・評価
遺伝子解析
原因遺伝子変異の同定に、次世代シークエンサを用いた全エクソーム解析による遺伝子解析・遺伝学的検査を行いました。同定された遺伝子変異の病原性は、ACMGのガイドラインに従い、主に3つのデータベースを参考にして決定されました。同定された遺伝子変異を以下の3つの遺伝子型(ミスセンス変異/ミスセンス変異、ミスセンス変異/短縮型変異、短縮型変異/短縮型変異)に分類しました。

臨床像の評価項目
各遺伝子型において、発症年齢、視力の変化、眼底所見(病期)の変化について評価しました。本研究の主要評価項目を疾患の進行と関連する眼底所見に設定しました。またスタルガルト病の一部の症例で認める中心窩のみ網膜変性を回避するfoveal sparing typeの各遺伝子型における割合と、その表現型に関連する遺伝子変異の種類についても評価しました。


【結果】
遺伝子解析
合計62種類のABCA4遺伝子変異が同定され、うち29が新規変異であることが明らかになりました。対象の条件にあった患者は63例で、遺伝子型の内訳はミスセンス変異/ミスセンス変異であった患者は19例、ミスセンス変異/短縮型変異であった患者は23例、短縮型変異/短縮型変異であった患者は21例でありました。

臨床像
各遺伝子型に共通する結果として罹病期間に依存して視機能の増悪が認められました。発症年齢、視力の変化、病期の変化の結果は、統計学的に、短縮型変異/短縮型変異で最重症、ミスセンス変異/ミスセンス変異において最軽症、そしてミスセンス変異/短縮型変は両者の中間であることが明らかになりました。63例のうち6名にfoveal sparing typeを認め、その遺伝子型の内訳は4名がミスセンス変異/ミスセンス変異、2名がミスセンス変異/短縮型変異でありました。p.Arg212His変異は、6名のfoveal sparing typeにおいて最も頻度が高く、軽症な表現型に関連のある遺伝子変異であることが示唆されました。また眼底所見において、眼底自発蛍光における過蛍光所見や黄色斑の存在の有無が疾患の進行に関連している可能性が示唆されました。


【今後の展開】
スタルガルト病は比較的早期に発症し、重篤な視機能障害を呈すること、そして現在進行形で遺伝子治療・内服治療の臨床研究が行われていることから今後、日本でも遺伝子治療が行われる可能性が高い疾患であります。本研究で幅広い年代の日本人の症例を解析し、本疾患の遺伝学的・臨床的特徴を明らかにしました。今後は、遺伝子治療の介入を判断する上で発症早期に当たる小児症例における進行に関連した眼底所見の変化について重点を置いて解析を行いたいと考えています。

本研究の成果は、American Journal of Ophthalmology誌に2024年3月16日付けで掲載(online ahead of print)されました。
Kei Mizobuchi, Takaaki Hayashi, Koji Tanaka, Kazuki Kuniyoshi, Yusuke Murakami, Natsuko Nakamura, Kaoruko Torii, Atsushi Mizota, Daiki Sakai, Akiko Maeda, Taro Kominami, Shinji Ueno, Shunji Kusaka, Koji M Nishiguchi, Yasuhiro Ikeda, Mineo Kondo, Kazushige Tsunoda, Yoshihiro Hotta, Tadashi Nakano.
Genetic and clinical features of ABCA4-associated retinopathy in a Japanese nationwide cohort.
Am J Ophthalmol. 2024 Mar 16:S0002-9394(24)00110-7. DOI:10.1016/j.ajo.2024.03.007

メンバー:
東京慈恵会医科大学 眼科学講座
助教     溝渕 圭
教授     林 孝彰
講座担当教授 中野 匡

共同研究施設:
  ・日本大学視覚科学系眼科学分野
  ・近畿大学医学部眼科
  ・九州大学大学院医学研究院眼科学
  ・東京大学医学部眼科
  ・東京医療センター臨床研究センター視覚研究部
  ・帝京大学医学部眼科
  ・神戸アイセンター病院
  ・浜松医科大学医学科臨床講座眼科
  ・名古屋大学大学院医学系研究科眼科
  ・弘前大学医学部眼科
  ・宮崎大学医学部眼科
  ・三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科
   
以上


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