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発達障害の子、増えてる?
心配なら悩む前に受診を

 パソコンやスマートフォンの普及でインターネット検索が手軽にできるようになった昨今、子どもの病気に関する情報が得やすくなり、神経発達症(発達障害)についても理解と認知度が高まったと言える。その一方で、少し気になる程度の言動や個性に過度に反応し、安易に病名を付けたり、慌てたりする保護者らが増えているという。専門家は「行き過ぎた自己判断が子どもや家族を苦しめることもある。悩みがあれば念のために小児科を受診してほしい」と呼び掛ける。

 ◇さまざまな悩みに相談窓口

 発達障害には、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症、知的発達症など多くの種類があり、それぞれ特徴的な困難さを伴う。〝障害〟というよりは〝特性〟で生活に支障を来している状態といった捉え方になりつつある。

 強い特性は「怠け者」「自分勝手」「変わった子」などの誤解の元にもなりやすい。気軽に相談し必要なら支援も得られるようにと、行政による窓口が複数開設されているほか、医師の診断が無くても利用できる早期療育や発達支援の施設もある。

 ◇患者数は過大に見積もられている

 さまざまな場面で落ち着きの無いわが子を見て「私の子、発達障害かもしれない」と漠然と感じたとする。多くの自治体で支援センターが存在し、周囲からも「手遅れになる前に何とかしないとね」と言われれば、ますます当事者は焦ってしまう。

他の子と少し違うふるまいに過度に反応する親が増えている(イメージ画像)

他の子と少し違うふるまいに過度に反応する親が増えている(イメージ画像)

 「保護者らの焦りによる自己判断が、発達障害と疑われる子どもが増えている要因の一つです」。新百合ヶ丘総合病院の発達神経学センター長で名誉院長の高橋孝雄医師は分析する。本来なら治療や介入の必要ない子どもが含まれている場合も多いという。

 また、社会が子どもに求める「普通の子」の基準が、従来よりも厳しくなっており、結果として「できない」と判断される子どもが増えている。幼稚園の先生から「校庭で集合と声を掛けても、お子さんだけは独りで遊んでいる。集団指示が通らないから自閉症かもしれない」と指摘されるというのだ。

 さらに親のしつけが不十分なのではないかと責められれば「私の子、自閉症かもしれない」となってしまう。

 ◇時間が解決する場合も

 社会が子どもに関心を持つのはいいことだ。しかし、それを全て真に受けて、保護者は焦り、自己判断や無用な心配を生み、子どもに対して干渉が過度になっている兆しもあるようだ。高橋医師は「そんな時は、まずは小児科を受診してください」と語り掛ける。

 例えば、言葉がなかなか出てこない子どもに対して、保育園の先生などから「自閉スペクトラムではないか」と言われたとしても、「他の発達に問題がなければ、可能性は否定できる」と同医師は言う。仮に「表出言語発達遅滞」という診断であれば、数年のうちに言葉が湧き出てくる。通院しながらあとは見守っていればいい。

 「念のため」という心構えで受診し、「心配ない」と判断されればこの上ない。もしも何らかの介入や治療が有効となれば、必要に応じて受け入れればいい。ごく少数だが治療に発展することもあり、例えば注意欠如多動症の一部には薬が処方されることもある。いずれの場合でも「ご相談いただいてよかったとお伝えし、受診を感謝します」(高橋医師)。

 ◇検索が生み出す病名

患者や家族に「それはどうして?」を3回は掘り下げて話を聞く高橋医師

患者や家族に「それはどうして?」を3回は掘り下げて話を聞く高橋医師

 SNSやネットの検索を繰り返すと、情報が閉鎖的になったり偏ったりし、しまいにはそれが増幅する。これは、自分の好みや検索傾向を学習したアルゴリズムによって、同様の情報ばかりが表示される「フィルターバブル」や、自分と似たような価値観や考え方のユーザーが発信する内容にばかり目が行く「エコーチェンバー」といった状況に陥ってしまうからだ。

 うちの子の言動はこの障害のこの特徴とそっくりだ。幼稚園の先生のあの指摘通り―。検索に次ぐ検索で、思い込みが形成されていき、病名が生み出され、悩みや心配がさらに深まる。高橋医師は「受診時に保護者へお願いするのは『もう検索はやめて』です。医師はそれを上回るアドバイスができますから」。

 ◇「悩みがある」は子育てのバイタルサイン

 でも、小児科の先生はいつも忙しそう。ちょっと心配というだけでかかりつけ医を受診していいのかと、気が引ける保護者もいるかもしれない。

 こうした場合、高橋医師は「ついで受診」を勧める。予防接種や健康診断の時などに「ついで」の気持ちで相談する。「小児科医は、子どもに関することは全て診ます。子育てから重い病気まで守備範囲。一回の受診に一つの相談なんて決まりはありません」。検査や治療が必要と判断されれば、専門診療科を紹介されるはずだ。

 高橋医師は「子育てにおいて悩みと幸せは表裏一体。悩んでいるのは、それだけ子どもに関心があり、真剣に考えている証しで、いわば〝バイタルサイン〟と言えます」と話す。ただ、限られた情報や一部の人の意見、それによる思い込みだけを根拠に悩み続けることはない。「まず受診で大丈夫です」。(柴崎裕加)


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