現代社会にメス~外科医が識者に問う
世界各国で導入が進む「クオータ制」
“努力義務”で先送りする政治家の本音 ジャーナリスト長野智子さんに聞く(下)
◇女性に関する法案は後回し
河野 日本で女性議員だからこそ成立できた法律にはどんなものがありますか。
長野 DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)は超党派の女性議員が推し進めた議員立法として制定されました。また、刑法は110年前に制定され、性犯罪に関する規定は女性の声が反映されていませんでしたが、2014年に当時法務大臣だった松島みどりさんが「強姦(ごうかん)罪が強盗罪よりも刑が軽いのはおかしい」と発言したことで検討会が設置され、多くの女性議員や団体の尽力により改正が行われました。婚姻歴や性別を問わず、子がいる人が適用できる「ひとり親控除」もその一つです。
そのほか、低用量ピルは欧米に遅れること30年、日本では1999年に認可され、経口中絶薬は2023年に国内で初めて承認されました。諸外国では法的に認められている「処方箋なしで購入可能な緊急避妊薬」は未承認、「選択的夫婦別姓」も30年間法制化されていません。女性に関する法案は男性にとっては優先度が低く、どれも成立するのに大変時間がかかっているのです。*2
「クオータ制を実現する勉強会」で司会する長野智子さん
◇クオータ制導入への高いハードル
河野 勉強会のゴールでもある「クオータ制」は実現の可能性があるのでしょうか。
長野 2022年10月の勉強会で上智大学法学部の三浦まり教授をお招きして、「日本で実施可能なクオータ制」について議論しました。クオータ制には一定比率を女性に割り当てる「候補者割当制」と議席の一定数を女性に割り当てる「議席割当制」があります。クオータ制を全政党に義務付ける「法律型」と政党が独自に実施する「政党型」があり、強制力も含めてさまざまな形があります。
日本に合ったクオータ制について、三浦先生は「政党助成金でインセンティブを与える」という方法を提案されました。女性候補を増やすことに最もハードルが高いのは最大与党です。また、選挙制度審議会で議論するのがほとんど男性なので、「まずは選挙制度審議会の指標に入れるよう働き掛けをする必要がある」という、かなり手前の話で終わりました。
長野 表向きには「女性国会議員を増やす」と目標を掲げていながらも、女性登用に対して前向きではない政党が法制化を強行に拒んでいるのは明らかです。私はノルウェーを始め、クオータ制を採り入れた国の取材もしましたが、多くのケースで導入のきっかけは政権交代か政権トップの交代でした。
過去に衆院で飛躍的に女性議員が増えたことがあるのは、2005年、当時の小泉純一郎首相が郵政民営化を世間に問うた「郵政選挙」です。郵政法案反対の対立候補に「刺客」として女性候補を送るなど、女性を積極的に登用しました。その結果、この選挙での女性の当選者は戦後最多の43人。このうち、6割が自民党公認で全員が当選しました。トップの決断さえあれば、女性議員を増やすことは可能だということを、まさに「小泉流クオータ制」が実証したと言えます。ただその後は自民党内の男性議員から批判の声が上がり、後継の総裁がこれを引き継ぐことはありませんでした。
「クオータ制を実現するための勉強会」を続けてきて分かったのは、政権交代もしくはこのテーマを優先させるリーダーやトップが現れない限り、今の日本でクオータ制を実現するにはハードルがかなり高いということです。
(2024/10/17 05:00)