現代社会にメス~外科医が識者に問う

世界各国で導入が進む「クオータ制」
“努力義務”で先送りする政治家の本音 ジャーナリスト長野智子さんに聞く(下)

 ◇トップの判断で「函館宣言」が実現

日本消化器外科学会総会での「函館宣言」発表の様子

日本消化器外科学会総会での「函館宣言」発表の様子


 河野 実現するにはトップが女性登用に対して強い信念があり、責任が持てるかどうかですよね。党内からの反発が強く自分の椅子が危うくなると思っているような人では難しいと思います。

 昨年、「函館宣言」*4を消化器外科学会で発表するに当たっても、ある一定の反発があったと推察していますが、最終的には当時の理事長が決断したおかげで実現できました。日本の外科医不足は深刻で、外科医は今や平均年齢が50歳を超えています。具合が悪くなったときにすぐに手術が受けられなくなるほど危機的な状況です。一方、30歳未満の女性外科医は増え続け、2割になろうとしています。女性医師を活用しないと成り立たなくなってきていることは明確です。おかげさまで函館宣言は大きな反響があり、皆さんの意識は変わってきているように感じます。

 長野 私はそれまで医療は実力の世界だと思っていて、医師は実力があれば性別は関係なく活躍できるというイメージがありました。けれどもそれ以前の問題で女性であることや子どもがいることで、機会が与えられず手術の経験を積ませてもらえないという河野さんのお話で、医療業界でもテレビ業界や政界と同じような問題を抱えているということに衝撃を受けました。函館宣言により、女性医師が活躍できるようになれば、医療者だけでなく、多くの日本人が救われるのではないでしょうか。

 ◇女性外科医が指導的立場に就けない理由

 河野 男女共同参画が遅れている日本の中でも、医学界はその何倍も遅れています。医学部の教授や医学会の理事などの役員の女性比率は増えてはいるものの、10%に満たない状況です。外科分野では外科専門医制度修練施設(認定施設)約1200施設のうち、女性医師が組織の代表を務めるのはわずか12施設にすぎません。手術成績に男女差がない中で、指導的立場にある医師の男女比がかなり偏っているのは、手術の執刀経験の少なさが一因だと分析しています。従来の女性医師支援は、育児や介護のための時短勤務制度や福利厚生面での仕事と家庭の両立支援制度が中心でした。ただ「配慮」という名の下に手術の執刀ができなくなり、重要な職務から外されてしまうのです。


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