育児ストレス軽減
~ADHDの子持つ親のトレーニング(沖縄科学技術大学院大学 島袋静香博士)~
注意欠如・多動性障害(ADHD)の子どもは、行動の問題により社会生活に支障を来しやすい。ADHD児の母親が、子どもへの接し方と自身の心のケアについて学ぶペアレント・トレーニング(ペアトレ)の試みが注目されている。
ADHDの子を持つ親のペアトレ「ウェル・ペアレント・ジャパン(WPJ)」の開発に関わった沖縄科学技術大学院大学(沖縄県恩納村)発達神経生物学ユニットの島袋静香博士は「親の育児スキルの向上とストレスの軽減効果が期待できます」と話す。

ペアトレ「ウェル・ペアレント・ジャパン」の特徴
◇親の心のケア学ぶ
ADHDは神経発達障害の一つで、年齢に不相応な不注意、衝動性や多動性を特徴とする。行動面で困難を示し、社会活動や学業に支障を来す場合が多い。2022年の文部科学省の調査では、通常学級の小中学生でこれらの問題を示す割合は4.0%に上った。
ADHDの治療には、ペアトレなどの心理社会的治療と薬物療法がある。「WPJは自分の子がどこに、なぜつまずいているのかを理解できるプログラムで、同じ悩みを持つ親たちと話し合う機会にもなります」
WPJは週1回2時間、全13回のグループセッションで、親の心のケアについて学ぶ第1部と、子どもの望ましい行動を増やすための行動療法を学ぶ第2部から構成される。
「親の心の健康を重視する点が特徴です。親が自分自身のストレスや行動パターン、物事の捉え方、コミュニケーションや問題解決の方法について学び、前向きな対応ができるよう支援します」
◇教員向けにも開発中
島袋博士らは、ADHDと診断された6~12歳の子を持つ母親124人を、WPJを受講する65人と、子どもがペアトレ以外の通常の医療を受ける59人に無作為に分けて比較する試験を実施。
分析の結果、子どもが通常の医療を受けた母親に比べて、WPJを受講した母親では、受講直後と受講3カ月後ともに育児ストレスの低下、子育てスタイルの改善、子育てへの自信の増加などの効果が示された。また3カ月後の調査では、家族の重圧感が減少した。
島袋博士らは、小学校で親がWPJを受講できる仕組みをつくれないか検討している。同時に、教師向けのビデオ教材を学校を通じて配信し、その有効性について評価する予定だ。
島袋博士は「子どもの行動問題に向き合うためには、まず親が心身共に健康である点が大切です。向き合うことに疲れたときは一休みすること、そして子どもの行動に対して寛容になることも必要です」と助言している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/02/03 05:00)
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