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脳転移のがんに光明
最新治療で変わるイメージ

 ◇5年超の生存も

「このがんは東洋人の場合、EGFRと呼ばれる遺伝子の変異が起きている人が半数以上を占める。この遺伝子変異をターゲットにした分子標的薬が次々に開発され、延命期間は大幅に改善された。最も新しいEGFRを標的とした分子標的薬を投与しした肺腺がん脳転移患者の平均生存期間は15.2カ月。複数の標的薬を切り替えて使った患者の中には、5年以上生存している事例も出ている。ガンマナイフを使って転移部分をピンポイントで照射すれば、より効果が期待できる」。中川准教授は治療の進歩が「脳転移すなわち、速やかな死という認識が過去のものになりつつある」と話す。

このように治療後の生存期間が長くなって、逆に生じる問題が全脳照射に伴う脳の萎縮やそれに伴う脳の機能障害だ。中川准教授は「長期の生存期間が前提になれば、認知機能の減衰や人格の変容は患者や家族にとって大きな問題になる」と指摘。「ガンマナイフなどを使って腫瘍のみに対象を絞ってがんの増殖を抑え、分子標的薬を組み合わせた治療へ切り替えることで、大きな効果が期待できる」と強調する。

ただ、この治療法にも問題はある。分子標的薬は遺伝子変異がない患者には効果が薄い上、非常に高価だ。「最新の薬になると、1回の投与で数千万円もかかる。健康保険が適用されれば患者の負担は一定の範囲に収まるが、医療財政的には大きな負担が生じるのは事実だ。制度論を含めた議論が必要になる」と語る。(了)


「用語説明」

 ①遠隔転移
 単一臓器内で発生、増殖したがん細胞が、血液やリンパ液の中に紛れて隣接しない臓器や骨などに転移。増殖して新たな腫瘍を作り出す現象。多くの固形がんでは完治が期待できない状況と判断されている。新しくできた腫瘍はできた臓器や骨にかかわらず、もとの臓器の腫瘍(原発巣)の細胞の性格が強く、抗がん剤などは原発腫瘍の治療に用いたものを使うのが一般的だ。

 ②ガンマナイフ
 さまざまな角度の放射線源から弱い数百本のガンマ線を同時に照射し、狙った部分にガンマ線を集束させる高度医療機器。がんの脳転移治療では、周辺細胞に影響を与えず、効果を高めることができる。照射のタイミングや確度、強さはMRIのデータを基にコンピューターで制御しており、頭部のがんや脳腫瘍など脳の深い部分への治療を可能にしている。

 ③肺腺がん
 肺がんの一種で、「非小細胞がん」の一つ。肺がんの中で最も患者数が多く、自覚症状が出にくいとされる。また、喫煙の影響を大きく受ける大細胞がんや扁平(へんぺい)上皮がんに比べ、喫煙との因果関係が薄く、女性の発病者も他の肺がんに比べると多いという。


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