女性に多い大腿ヘルニア
腸閉塞の危険も
「大腿(だいたい)ヘルニア」は、太ももの付け根の鼠径(そけい)部に起こるヘルニアの一つだ。これまで「鼠径ヘルニア」と同様に捉えられ治療が行われてきた。しかし、玉川病院(東京都世田谷区)の中嶋昭名誉院長は「同じ鼠径部に起こりますが、大腿ヘルニアと鼠径ヘルニアとでは経過や治療方法に違いがあります」と話す。
▽筋力低下で発症
大腿ヘルニアが起こる場所は鼠径部下のわずかな隙間で、鼠径ヘルニアが起こる場所より太ももに近いが、1センチも離れていない。患者の割合は鼠径ヘルニア98%に対し、大腿ヘルニアはわずか2%。鼠径ヘルニアとして治療され、見過ごされていることも少なくない。
「二本足で歩く人間にとって鼠径部は負担が掛かりやすい。加齢で筋力などが弱まると、腸などの内臓が筋肉や靱帯(じんたい)の隙間から飛び出すことがあります」と中嶋名誉院長。
大腿ヘルニアが起こる場所は鼠径ヘルニアより狭いため、出てきた腸などが締め付けられて戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」と呼ばれる状態になりやすい。腸閉塞(へいそく)による命の危険もあるため、治療は手術が基本となる。
▽三つの手術法
大腿ヘルニアの手術には「鼠径法」「大腿法」「腹腔(ふくくう)鏡」がある。一般的に行われる鼠径法では大腿ヘルニアと、そのすぐ上の鼠径ヘルニアが起こる場所も切り開き、腸などの出口になっている隙間部分を含め、広範囲に網状の人工補強材でふさぐ。
大腿法では、大腿ヘルニアの場所だけを手術する。傷が小さく、手術によるリスクを最小限に抑えられるので、高齢者に行われることが多い。
2000年ごろから広がった腹腔鏡は皮膚や筋肉を切開する部分がさらに小さく済む。患者への負担が軽く、現在は鼠径部のヘルニア手術の3割が腹腔鏡で行われる。大腿ヘルニアへの適用について中嶋名誉院長は「大腿ヘルニアは嵌頓を起こしていることが多く腹腔鏡は難しいとされていましたが、最近では技術も進歩し、できるようになりました」と話す。
また、膨らみや痛み、不快感など鼠径部に何らかの自覚症状がある場合について「年齢や症状に応じた治療法が選べるので、重症化する前に受診し、診断をつけることが大事です」と早期対応の重要性を強調している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2018/08/30 09:50)