インタビュー

シームレスな教育で日本をリード
早い段階で臨床経験-秋田大医学部

 ◇初期研修医が回帰

 --専門医の育成が重要になっている。臨床研修医制度への対応は。

 山本学長 秋田大に残る学生は、臨床研修制度ができるまで40人くらいいたが、これが始まると初期研修を秋田大でする人は10人を切った。研修医を残すには、秋田大が優秀である、優秀な病院を抱えているということをわかってもらわなくてはいけない。これを念頭にきめ細やかなシームレスな教育を行ってきた。また、県内の医療機関と協力体制を組んだおかげで、秋田県に残る初期臨床研修医は70人くらいになってきている。

 後期臨床研修医は一つの戦力だが、研修医の立場からすれば、たくさんの患者経験、最先端の教育能力を持つところを選ぶ。やっぱり都会に行く。現状はよくないが、これを克服するには、最先端の教育研究をしながら、後期研修医が働きたくなる魅力ある運営をしていかなくてはいけない。
 医学部に限らず、どのように大学を変えるべきか検討している。医療教育は日本をリードしているのだから、さらなる充実に向けてプラスアルファを考えていきたい。

 ◇世界の最先端

 --学長が医学の道に入ったきっかけ、医学への思いは。

山本文雄秋田大学学長
 山本学長 私は父の勧めで医学部に入った。あまり真面目な学生ではなかったが、国家試験はなんとか通り、心臓外科の医局に入った。心筋保護をテーマに学位を取ると「何をやりたいんや」と教授に聞かれ、「海外で自分を試してみたい」と申し出て留学することになった。行った先のロンドン大学セント・トーマス病院は心筋保護で世界の最先端。やりがいを覚え、1週間寝ないで働くくらいだった。

 ◇無給で研究

 1年半くらいたった時、大阪の国立循環器病研究センターから「スタッフの席がある」と誘われた。留学先のロンドンのボスに相談したところ「お前は英語があまりうまくないから、日本でがんばれ。うまくいかなかったら、いつでも戻ってこい」と温かい言葉をもらった。

 循環器病研究センターでは手術だけしていればよかったのだが、心筋保護という領域を与えられ、ロンドンで世界トップクラスに育ててもらった。捨てるわけにはいかなかった。日常の臨床が終わってから、夜の9時10時からロンドンと相談しながら(無給で)研究を続け、気が付くと15年続けていた。研究で成果を上げて秋田大学に来たのだが、転機は留学だった。学生には勉強すると同時に、出会いを大事にしなさいと言っている。

 ◇ボランティア精神

 --秋田大医学部、医学生の特徴は。

秋田大学正門
 山本学長 医学部に限った事ではないが、企業が雇いたい学生の大学ランキングで秋田大が1位になった。「対人力」と「行動力」が評価された。秋田大には、こういう土壌がある。6年間、10年間秋田で生活すれば、雪の厳しさ、環境の厳しさで医療に対する考えも深まっていくのではないか。雪が降ると患者は薬をもらいに行けない。訪問診療は雪かきをしていく。こういう土地で貢献したいという学生が少ないわけではない。このような気持ち(ボランティア精神)で医療に臨めば、患者とのトラブルも生じないし、むしろ患者から感謝されると思う。立派な医療人を輩出していると思う。

 --これからの医学生に期待することは。

 山本学長 医療にかかわる人はまず、ボランティア精神を持ってほしい。医療の不平等にも関係するが、都会ではハイ・スタンダードな医療が受けられ、へき地ではスタンダード以下ということは絶対に避けなくてはいけない。医者はどこに行っても最先端の知識、技術を吸収しながら医療を提供するために毎日が勉強。努力しなくてはいけない。 自分が(専門の)領域を作ったら、それが小さな領域でも自分の右に出るものはいないくらいに追求してほしい。それを、どこかで人が見ていて評価してくれる。講演に呼んでくれ、チャンスをもらえる。チャンスをもらえば、さらにやりがいが出て、伸びていける。(時事通信社・舟橋良治)

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