医学生こーたのひよっ子クリニック

第16回 「どうやら民間療法にハマってしまって、亡くなったみたいよ」

皆さんご存じの通り、日本人の死因第1位は悪性新生物、つまりがんです。テレビや新聞では、毎日のようにがんによる著名人の訃報が伝えられています。そこでよく話題になるのが、補完代替医療。これは、私たちが受けている現代西洋医学(通常医療)を補ったり、それに取って代わったりするもののことをさします。抗がん剤治療の副作用である嘔気や嘔吐(おうと)に対して、軽減効果があると報告されているはり治療や、がんのQOLの改善に効果が証明されている漢方薬などが、これらに当たります。

医療情報リテラシーを磨いて判断力を養おう

今あげた二つは、一部保険医療としても認められており、有用である可能性を科学的に示唆されていますが、ほとんどの補完代替療法の医学的有用性は科学的に証明されていません。それどころか「治癒可能ながん患者が代替医療を選択すると、死亡リスクが2倍以上になる(*1)」「通常医療に補完療法を組み合わせてがん治療を行った人は、通常医療のみでがん治療を行った人に比べて死亡リスクが2倍になる(*2)」というデータも存在しており、不利益を被ることにもなりかねません。

また、補完代替医療を悪用した詐欺まがいのニセ医療ビジネスは横行し、多くの患者さんがだまされています。本庶先生がノーベル賞を受賞したことによって、一躍脚光をあびた「PD-1」=用語解説=に対する免疫療法に便乗したニセ医療ビジネスも、この一例です。全くPD-1とは関係ない「免疫療法」と名のつくものを扱う会社が、あたかもがんに効くかのように拡大解釈を誘っています。科学的根拠がないものによって、多額のお金を患者さんから徴収することは、倫理的にいかがなものでしょうか。

本来はうまく使いこなすことによって、患者さんのためになりうる補完代替医療。重症疾患を持つ患者さんの心の安定やQOLを手助けすることが、本来の目的なのではないでしょうか。しかし現在は玉石混交、いやほとんどがニセ医学であるため、正しい利用法はうまく浸透していません。多くの医療者も、補完代替医療否定派の立場を取っています。野放しにせず、明らかに科学的に疑わしいものに関しては、国主導で取り締まれるようにするべきなのではないでしょうか。

では私たちは、科学的に証明されていない補完代替医療と、どのように向き合っていけば良いのでしょう。私自身もいざ自分ががんになり、気持ちが弱ってしまっている時に、これをはっきりと否定できるかどうかはわかりません。患者さんが、わらにもすがりたい気持ちになってしまうことは、致し方ないことだと思います。そんな時に役立つのが、厚生労働省が作成している「統合医療情報発信サイト」です。「医療情報を見極めるための10か条」など、根拠に基づいた医療を理解するのに役立つ情報が、掲載されています。これを基に主治医の方と相談し、本当に自分にとってプラスとなるのかを考えてほしいです。

さまざまな医療情報が簡単に手に入る時代。私たち国民も「正しい医療」にアクセスできるように、医療情報リテラシーを磨いていくことが求められています。これ以上ニセ医学の犠牲者が増えないことを切に願います。

【用語解説】PD-1
免疫チェックポイント分子の一つ。この分子の発見が、一部の肺がんや悪性黒色腫に効果が期待できるとされている、免疫チェックポイント阻害薬の開発につながった。

(*1) Skyler B. Johnson et al. Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival. JNCI. 2018 Jan 1;110(1):121-124. doi:10.1093/jnci/djx145.
(*2)Skyler B. Johnson et al. Complementary Medicine, Refusal of Conventional Cancer Therapy, and Survival Among Patients With Curable Cancers. JAMA Oncol. 2018;4(10):1375-1381. doi:10.1001/jamaoncol.2018.2487.

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