治療・予防

「オーダーメード」に変わるがん治療
AI駆使した病院も―北川慶応大病院長講演

がん治療について講演した北川雄光・慶応大学病院院長

がん治療について講演した北川雄光・慶応大学病院院長

 ◇変わらぬ外科医の役割

 「肝臓がんに対しては、がん細胞を焼いたり、凍らせたり、血管カテーテルを入れて『兵糧攻め』にしたりする治療法もある」。肝臓がんに限らず、ここ数年世界的に注目されているのが免疫本来の力を回復させようとする免疫療法だ。免疫チェックポイント阻害薬である「オプジーボ」という治療薬の名を知っている人も少なくないだろう。放射線治療でも、重粒子線でピンポイントで体の深部に線量を効果的に集中できる。

 それでは、外科医の役目は終わったのだろうか。北川氏は否定する。「多くの有効な薬が開発され、薬や放射線でがんを小さくしてから手術によってがん細胞を切除することができるようになった。昔なら切除不可能ながんを根治切除できる時代になった」と指摘した上で、「がん治療は『テーラーメード』の時代に移ってきた」と強調した。

 ◇ゲノム医療に課題

 ヒトゲノム(人間の全遺伝子)を解明しようとした壮大なプロジェクトの成果を基に、「がんゲノム医療」も注目され始めた。国はがんゲノム医療中核拠点病院を指定。その一つである慶応病院では、連携病院と週に2回テレビ会議を通じて個々の患者の治療方針を検討している。ただ、北川氏は現状の課題について「自費で遺伝子パネル検査を受ける上に、有効な治療薬が見つかる患者は限られている。恩恵を受ける患者はまだ少ない」と話した。

 高齢化の進行で医療費は伸び続け、その一部をがん関係が占める。しかし、少しでも削減することは可能ではないか、と問題提起した。「転移性の大腸がんの高齢者に抗がん剤を投与する。その結果、平均生存期間が5カ月から6・4カ月に延びた。しかし、生存期間を延ばすために高額で厳しい副作用がある治療が体力の低下した高齢者に適切かどうかは意見が分かれるところだ」。北川氏は「薬が科学的に効くことと、社会実装することは分けて考えるべきだ」と述べた。

がん治療の期待と課題を語る北川雄光・慶応大学病院院長

がん治療の期待と課題を語る北川雄光・慶応大学病院院長

 ◇AIで医療者の負担軽減

 「働き方改革」が叫ばれているが、医師の世界ではなかなか難しいようだ。「特に大学病院では、研究や教育という診療以外のミッションがある。教職員の数を5倍とか、10倍に増やせればよいが、それでは大学病院の経営は破綻する。仕組みを変えて業務を少なくしないと、医師の場合、働き方改革はできない」と語った。

 大幅な人員増が見込めない中で、業務の負担を減らすにはどうするか。慶応病院などではAIを活用した「AIホスピタル」構想に取り組んでいる。患者は外来で、自らのデータをスマートフォンで一元化して管理。診察室では誰が話したのかをAIが聞き取り、自動的に電子カルテに入力する。医師がパソコンに入力する手間が省け、患者と向き合う時間が増える。さらに、電子「お薬手帳」によって誤投薬を防ぐ。ベッドにさまざまなセンサーを取り付け、入院患者が危険な状態かどうかを察知する。北川氏が紹介したこうした事例が実現すれば、医療従事者の負担軽減とともに、患者のメリットにもつながる。

 ◇一定の年齢になれば検診を

 日常生活でがんを早期発見するこつはあるのだろうか。会場からの質問に北川氏は「一言で言えば、そういうものはない」と答えた。「一定の年齢に達したら自分のがんのリスクを知り、定期的に検診を受けてほしい。私も年に2回内視鏡検査を受けている」。北川氏はこう講演を結んだ。(鈴木豊)

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