Dr.純子のメディカルサロン

バイオレットライトに近視、うつの予防効果 ~コロナ禍、太陽光でクッキリ、スッキリ~

 新型コロナ感染症の影響でリモート業務が増え、目の疲れや不眠などを訴える人が増えています。近年、太陽光の中に含まれるバイオレットライトと、ドライアイ近視や老眼との関連について発表された慶応大学名誉教授で、慶応大発のベンチャー企業坪田ラボのCEO、坪田一男先生に話を聞きました。(聞き手・文 海原純子)

 屋外で過ごすと近視になりにくい

 海原 坪田先生は今年3月まで慶応大医学部の眼科学教室教授として、太陽光に注目して研究されてきました。女性は特に、日焼けが怖くて陽に当たらない人も多いと思いますが、太陽光の効果に注目した経緯を教えてください。

坪田一男慶応大学名誉教授

 坪田 日本をはじめ世界各国で近視人口が増加しており、近視対策は喫緊の課題となっています。十数年前に米国の研究で、外遊びをしている人は近視になりづらいことが明らかになっていました。しかし、なぜ、屋外で過ごすことが近視の進行抑制に効果があるのかは解明されていませんでした。

 私たちは、強度近視の人に眼内レンズを用いた屈折矯正手術をしていますが、そのフォローアップで、手術後に近視が進む人と進まない人がいることに気付き、その違いは何かを調べました。挿入した眼内レンズの違いによることが分かり、そのレンズを詳しく調べると、ある波長の光を通す量に違いがあったことが明らかになったのです。その波長とは、屋外環境に豊富に存在する波長360-400nmの紫の光(バイオレットライト)です。

  バイオレットライトを通す眼内レンズを装着した患者は、近視の進行が抑制されていたのです。コンタクトレンズでも調査したところ、同様の結果が得られ、マウスやヒヨコなどの基礎研究の結果も重ね、バイオレットライトを浴びることが近視の進行抑制に効果があることを発見したのです。このバイオレットライトこそ、太陽光に含まれる光なのです。

バイオレットライトの波長領域

海原 バイオレットライトという名前を知らない人がほとんどだと思います。バイオレットライトを含む太陽光に当たる時間が少ないと、大人でも近視ドライアイが悪化するのですか。

 坪田 その昔、成人以降、近視は進まないといわれていましたが、最近では成人以降も近視が進行する患者が増えています。このような人も、バイオレットライトを浴びる時間と関係している可能性があるのではないかと考えています。

 ドライアイに関しては直接、太陽光との関係性は確認されていません。ドライアイは生活習慣病であると考えられるため、屋外で運動しなかったり、屋内で座りっ放しだったりすると、ドライアイになりやすいかもしれません。

 海原 普段、オフィスに閉じこもる仕事の場合はどうすればいいでしょうか。

バイオレットライトが近視予防に役立つ

 坪田 オフィス内で作業をしていても、毎日2時間、週14時間を屋外で過ごすと、近視になりにくいという論文があります。外に出ないで、オフィス内にずっといると近視がより進行します。

 ドライアイに関して、オフィス内では、ディスプレー作業が多く、集中している時は瞬きの回数が減り、ドライアイを悪化させる要因となります。ドライアイ対策として、1時間ごとに目を休ませたり、瞬きの回数を意識して増やしたりすことが大切です。
 小まめに太陽を

 海原 日当たりのいい窓の近くで、陽に当たって仕事をしても効果はないのでしょうか。

陽気に誘われて人々が早咲きのチューリップを楽しんだ(埼玉県の国営武蔵丘陵森林公園、3月14日)

 坪田 窓から離れている場所に比べるといいかもしれませんが、最近の普及しているガラスはバイオレットライトを通さないため、バイオレットライトを浴びることができません。意識して、窓を開けたり、ベランダに出たりする。直接、太陽光を浴びる環境をつくることを推奨しています。

 海原 人工的にバイオレットライトを増やす方法はないのでしょうか。

 坪田 バイオレットライトを発する技術はありますが、現在のLEDや電子機器類の光にはバイオレットライトが含まれていません。現段階では、屋外で太陽の光を浴びることが重要だと考えています。

 海原 日焼け止めを塗ると、バイオレットライトの作用が減少しますか。

 坪田 人間には九つの光受容体が確認されており、そのうち五つは視覚と関係なく、皮膚にも光受容体があります。一方、近視の進行に関する光受容体は、眼にあるので、近視の進行に関しては、問題ありません。

 うつ予防にも効果

 海原 日焼け止めを塗り、日に当たりバイオレットライトの恩恵で近視を防ぐことができるということですね。太陽の光を浴びることと、メンタルな面との関係はありますか。外を歩くと何となくすっきりすることが多いのですが。

光を感知するシステム

 坪田 眼の網膜にOPN(オプシン)5という非視覚系の光受容体があります。バイオレットライトによって、このOPN5が活性化されるのですが、このOPN5は脳波を含めた脳機能に影響を及ぼしていることが分かってきて、うつなどの精神・神経系の治療に有効な可能性が研究されています。

 また、網膜にあるOPN4と呼ばれる非視覚系の光受容体は、ブルーライトに反応して概日(がいじつ)リズムをコントロールします。太陽の光に含まれるブルーライトも日中に浴びることで、夜にメラトニンが分泌されて、概日リズムを整えるため、良好な睡眠をとりやすくなります。太陽の光はメンタル面でも大切な働きをしてくれると思います。

 海原 朝、起きたら窓を開ける、昼休みなどを利用して外に出る。毎日、少しでも外で過ごす時間を上手につくることが、コロナ禍の中で心の健康を保つために必要と言えますね。長い時間、外を歩くことがなくても、小まめに太陽に当たる機会をつくっておきたいと思います。


 坪田 一男(つぼた・かずお) 慶応大医学部卒業後、ハーバード大角膜クリニカルフェロー修了。世界に先駆けた、角膜上皮の幹細胞移植による再生治療の実績で注目を集める。ドライアイにいち早く着目し、数多くの論文を発表。2013年世界のドライアイ研究者ランキング1位。 角膜移植の分野では、日本のアイバンクにアメリカ式のシステムを導入し新しい医療を展開。慶応大大学院経営管理研究科 EMBA(Executive MBA)取得。MITスローン経営大学院起業家精神開発プログラム修了。ハーバードビジネススクール ヘルスケアデリバリー戦略修了。近視研究会 世話人代表、日本抗加齢医学会 前理事長、ドライアイ研究会 初代代表世話人。



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